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シリコンバレーで考える 安藤茂彌

クリステンセン教授が指南する人間の幸せ

安藤茂彌 [トランス・パシフィック・ベンチャーズ社CEO、鹿児島大学特任教授]
【第74回】 2014年1月17日
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 しかし、家族への時間の投資は、子どもの成長段階に応じて、その時どきに然るべき対応をしておかなければならない。仕事が一段落したときにまとめて投資をする、ということができない性格のものである。同様に妻への投資も、妻が子育てで忙しいときに負担を分かち合っておかなければならない。自分が暇になった時にまとめて補うことができるものではない。信頼する友人との時間の過ごし方も、普段から関係を維持しておくことが重要である。

 自分が仕事を通じて立派なキャリアを築いていくことは人生を成功させるうえで極めて重要なことではあるのだが、同時に「夫として」「父として」絶えず家族に貢献していかないと、後日大きな後悔をすることになる。必要なのは、キャリアと家庭の両方にバランス良く時間と労力を配分することである。

 では、成功をしている人の中に、刑務所に行く人と行かない人とがいるのは、何がその違いを分けているのだろうか?それは、キャリアで成功している人が成功を確実にするために、「たった一度だけならば原則を曲げても許される」と安易に考えてしまうところに原因がある。スポーツ選手のステロイド疑惑、証券のインサイダー取引、粉飾決算隠蔽工作、新聞記者の特ダネ捏造はすべて、原則に例外を設けることから生じている。自分に対してどこまで厳しさを貫徹できるかが明暗を分けたと言える。

 クリステンセン教授の経営理論は、人間に対する洞察力をベースに自分の理論を組み立てていくところに特徴があり、それが故に強い説得力を持つ。同様の手法を個人のレベルに当てはめたのが、「この本」であるが、大変わかりやすく説得力に富むものだった。講演内容がHBSのウェブサイトに掲載されてから、最も多くダウンロードされた記事となった。

 こうした思考過程を見ていると、クリステンセン教授は自分に対して大変に厳しく、信心深いキリスト教徒で、家族に対する愛情も人一倍強く、家庭と仕事のバランスをうまくとって、仕事の上でも大きな業績を残している方と見受けられる。その教授が2009年に悪性リンパ腫というがんにかかり、さらに翌年には脳梗塞で倒れて失語症を患ってしまう。リハビリを重ね、いまではだいぶ良くなられたようではあるが、神の思わぬ仕打ちにやるせない気持ちにさせられたのではないだろうか。

 教授は、思っていたより早く人生の最期を迎えるかもしれないという重大な岐路に立ち、自分の人生をいかに評価するかという設問に回答を出そうとしている。教授は神と向き合い、自分の人生を評価する物差しは、お金とか地位とかの世俗的成功ではなく、教授が関わりを持った一人ひとりがより良い人間になるように助けたか否かが重要な物差しになる、と結論付けている。

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安藤茂彌
[トランス・パシフィック・ベンチャーズ社CEO、鹿児島大学特任教授]

1945年東京生まれ。東京大学法学部卒業後、三菱銀行入行。マサチューセッツ工科大学経営学大学院修士号取得。96年、横浜支店長を最後に同行を退職し渡米。シリコンバレーにてトランス・パシフィック・ベンチャーズ社を設立。米国ベンチャービジネスの最新情報を日本企業に提供するサービス「VentureAccess」を行っている。VentureAccessホームページ

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シリコンバレーで日本企業向けに米国ハイテクベンチャー情報を提供するビジネスを行なう日々の中で、「日本の変革」「アメリカ文化」など幅広いテーマについて考察する。

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