人生はとどのつまり「賭け」
諦めなかったビール事業の黒字化

 ウイスキーメーカーとしての地位を固めた同社は、1963年にサントリーに社名を変更し、ビール業界に参入した。当時のわが国のビール市場は、キリン、アサヒ、サッポロがほぼ100%のシェアを握る典型的な寡占マーケットで、新規参入者には厳しい状況だった。

 そのとき佐治敬三社長は、創業者である鳥井氏にビール参入を相談したところ、「人生はとどのつまりは賭けや。やってみなはれ」との返答を得た。それを受けて、2代目社長はかなり思い切った経営判断を行った。佐治敬三氏は、今回のM&Aを決めた信忠社長の父だ。

 ただビール分野では、当初は思ったように業績を伸ばすことができず、ビール部門の赤字が続いた。しかし、同社はそれにめげなかった。「ザ・プレミアム・モルツ」や「金麦」などのヒットもあり、2008年3月期にようやく営業利益約30億円を記録した。

 同社がビール部門に参入してから、実に45年かかって黒字化に成功し、業界3位の地位を手に入れたのである。おそらく、欧米流の合理的な経営手法では、長期間にわたって赤字を垂れ流した事業は、早い時期に切り捨てられていただろう。そのビール部門を執念で続け、今や同社のドル箱事業の1つに育て上げた経営手腕には頭が下がる思いだ。

 しかし、信忠社長はそうした現状に甘んじることなく、世界の蒸留酒部門で勝負することを決断した。M&Aの費用はおよそ160億ドル。まさに“一世一代の大勝負”だ。そうした経営者としての決断は、外から見る限り実に頼もしい印象を持つ。つい最近まで我々が忘れていた企業家精神を見せられた思いだ。

 今回、サントリーが“一世一代の大勝負”を決断できた背景の1つに、同社が同族・非公開企業という要素がある。もともとサントリーは、創業者一族が株式の大半を保有する非公開企業のステータスを続けてきた。