田村 企業によっては、海外進出に当たってその土地の人たちの好みに合うように商品を変えたりするじゃないですか。<獺祭>の場合は、世界中のどこで飲んでもまったく同じなんですね。
桜井 マス(大量販売)の商品なら、土地ごとの特性に合わせて変えることもアリだと思いますが、<獺祭>は違います。
海外進出を始めた2000年前後のこと、香港のバイヤーに取引してくれないかお願いに行ったときは、「味を現地の好みに合わせて変えてくれないか? 名前も広東語では読めないから変えてほしい」と言われたので、「残念ですが……」と、こちらから引き下がったこともありました。結果として、香港の市場開拓が遅れた面もあったと思いますが、今ではかなり支持を頂いているので、信念を曲げなくてよかったと思っています。
日本酒が身近な存在になるなら
それでいい、と思う
田村 パリでも<獺祭>を飲めるようになったら、パリッ子が昼間から日本酒を楽しむ、といった新しい文化が生まれる可能性もあるわけですね。それは本当に楽しみです。ただ、そうやって<獺祭>ばかりが注目されると、同業から妬まれたりしませんか?
桜井 ないとは言いません。でも、いみじくも淳さんが「<獺祭>を入り口として色々な日本酒を飲むようになった」と仰ってくださったように、私たちが進出することで、ほかの酒蔵が出やすくなることも事実だと思うんです。ですから、とにかく広く日本酒を飲んでいただきたい、と思って取り組んでいます。
私も酒飲みですから分かるのですが、さまざまな銘柄を飲んでみたいですし、<獺祭>だけ一筋に飲んでほしいとは全く思いません。<獺祭>をきっかけに、もっと日本酒が身近な存在になれば、それでいい。たまに<獺祭>のことを思い出して、久々に飲んでみよう!と思ってもらえる酒でいられれば、それでいいんです。思い出してもらえなくなったら終わりですけど(笑)。
田村 飲みやすさからしても、<獺祭>は日本酒を飲んだことがない人に、もっと受け入れられると思います。普段は日本酒を飲み付けない僕の妻も<獺祭>なら飲むぐらいです。そうだ、妻の実家を初めて訪問し、「お嬢さんをください」とお願いした日、お義父さんと初めて酌み交わしたお酒も<獺祭>でした。
桜井 え! それは嬉しいですね。
淳さんの世代だと聞き慣れないかもしれませんが、高度成長期に言われた“巨人、大鵬、卵焼き”のような圧倒的多数に好かれるレベルまで、<獺祭>の存在感を高めたいと思っています。一部の通だけに愛されるマニアックなものではなく、国民にとって当たり前にある存在にしていきたい。
田村 日本酒って、造り出されるまでの物語があるからこそ、それだけ味わい深くなりますよね。
桜井 もっともっと日本酒を気軽に飲んでいただけるように、これからも頑張ります。本日はお忙しいスケジュールの中、本当にありがとうございました。淳さんのように、<獺祭>をきっかけとして日本酒を好きになったというプロセスは、私たちがまさに目指してきたところなので、本当に嬉しかったし、早速、明日の朝礼で社員に話すネタにします(笑)。
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