田村 旭酒造のお酒はすべて<獺祭>ブランドですけど、各商品ごとに<磨き その先へ>といったサブタイトルがついていて、印象的ですよね。意識して、そそるようなタイトルを考えられたのですか?

桜井 そう言って頂けると嬉しいけど、外部からは「精米歩合の数字だけで、面白みがない。もっと『雪の○△』といった、色気のある名前を付ければ?!」とよく指摘されるんです。

撮影:住友一俊

田村 いかにも日本酒をイメージさせる名前のほうがいい、と言われるわけですか(笑)。でも、<磨き 二割三分>という名前は、シンプルなメッセージだったからこそ僕には強烈でした。

 すっかり日本酒好きになってから、酒蔵をテーマにした漫画『夏子の酒』を読み返してみたのです。そこでは、利益確保に走る酒蔵と、味を追求する酒蔵が対比されているのですが、後者を体現しているのが<獺祭>なんだ、と痛感しました。とにかく、こんなに透き通った感じの日本酒は今まで味わったことがありませんでしたから。

桜井 いやぁ、そんなに褒められると…。ただし、本来の方法できちんと造れば、こういう味になるはずなんです。高度成長期は、コマーシャリズムで随分日本酒が売れましたから、会社として生き残るためには利益を出せてればいいという雰囲気も広がりましたが、結局のところ、いい加減なものをだましだまし売っても長続きするはずはありません。

<その先へ>は、<二割三分>と
違う方向性を目指して今も進化中

桜井 普段、ほかにはどんなお酒を飲まれますか?

田村 日本酒にハマったきっかけでもある<獺祭>はもちろんですが、ここしばらくで強く印象に残っているのは『新政No.6(ナンバーシックス)』です。

桜井 ああ、新進気鋭の佐藤祐輔(新政酒造8代目)社長が造っているお酒ですね。彼が日本酒にかける情熱には、意気に感じるものがあります。

田村 どうして「No.6」なのかと思ったら、6號酵母を使用しているからと聞きました。そのストレートな発想に、仰るような酒への秘めたる情熱を感じます。

 だけど、日本酒にかける情熱は、桜井社長もすごい。トコトンこだわって<磨き二割三分>を造り出しながらも、さらに<磨き その先へ>という新しいお酒を出されましたよね。<磨き 二割三分>と2本セットになっているものを入手して飲み比べてみたら、ホントに全然違っていて、本当に「その先」があったからビックリ。「マジでこの日本酒はすごい。芸術だ!」と思いましたよ。ただ、流通量がかなり少ないみたいで、あれから全然手に入りませんけど。

桜井 ご迷惑をおかけして申し訳ありません。

 <磨き 二割三分>は、ある意味で純米大吟醸の極限まで到達した商品ですから、その道を今以上に突き詰めても、最後はゼロになってしまうし(笑)、磨きを極める方向性においては、かなり完成形だと思うのです。だから他に違う方向性で極められないか、と考えて生まれたのが<その先へ>です。

田村 求めている方向性が、<二割三分>と<その先へ>では違う、というわけですね。