田村 僕は<獺祭>を飲んで以来、すっかり日本酒にハマって、いろいろな銘柄を飲み比べてみるようになりました。日本酒の場合も、ワインのように、造られた地域によって味が違うものなのですか。たとえば、<獺祭>も地元で飲んだほうが、東京より一層美味しいということがあるのでしょうか。

桜井 いえ、それはまったく同じです。私たちの商品の半分ぐらいは東京市場に出荷していますが、地元にお出ししているものと比べて、品質そのものに違いはありません。ただ、山口で造っているお酒ですから、ふぐ刺しなど地元の食材と相性がいいことは確かですね。

田村 それは、山口の郷土料理を意識して酒を造っているからですか? それとも、お酒を造るのに使う水と、食材を育ててきた水が同じだからでしょうか?

旭酒造の桜井博志社長

桜井 おそらく、長い時間をかけて、自然と合うようになっていったのではないでしょうか。ただ、基本的には地元の食材でなければ酒と合わない、ということはないと思います。「<獺祭>はどんな料理に合いますか?」とよく質問されますが、料理の引き立て役にとどまることなく、お酒が一番美味いと感じていただくのがベストだ、と私は思っています。

田村 ビールの味が一定しているのに比べて、日本酒の場合は造り手の思想が反映されやすい不思議なお酒ですよね。

桜井 ビールは大きな組織で造っていて、個人の顔が見えづらいというのはありますね。逆に、日本酒の場合は、そういう個人の顔というか思想がみえないといけないと思っています。

銘柄にストーリーがあると
話題が広がりやすい

田村 <獺祭>ブランドの中でも、僕が特に気になったのは<磨き 二割三分>です。日本酒を飲み始めたころ、西麻布にある行きつけの店のマスターに「どういう意味なの?」と聞いたら、“よくぞ聞いてくれました!”といわんばかりに、「通常は米を50%以上磨いていれば「純米大吟醸」と認識されるのに、このお酒は77%(歩留まり23%)まで磨き上げているんです」と教えてくれました。

 酒の名前に、そういうストーリーが込められていると、知らない人は興味をそそられるし、知ってる人はウンチクを語りたくなるので、味以外でも話題が広がりやすい。それは、お酒を選ぶ際の強みにもなりますよね。かくいう僕も、そのマスターの受け売りですけど(笑)、二割三分など精米歩合のウンチクをよそで何度話したかわかりません。

桜井 PRしていただいてありがたいです。