桜井 海外の料理と合わせても、主役を張れる日本酒を造りたかったんです。そういった“厚み”のある味を探求した結果、完成したのが<磨き その先へ>です。それ以前に周囲からも、「うな重だって、松竹梅だと竹が最も選ばれやすいから、<磨き二割三分>の上位商品をつくれば<二割三分>がもっと売れるよ」という指摘は受けましたが、私たちが目指す戦略はそういう単なるマーケティング的な意図とは一線を画していますし、<その先へ>は今も進化の途上にあると思っています。

田村 僕は外食に行くと、生意気だなと思いつつ、店のドリンクメニューにある日本酒のラインナップからは注文せず、店主さんがここぞ!というときに出す“隠し酒”がないか尋ねるんです。すると、たいてい出されるのが、<獺祭 磨き二割三分>。ハイ来た!それお願いします!とすぐ注文するのですが、山口県民としては、お店が大事にとっている酒が<獺祭>であること自体が誇らしいです。

桜井 酒って、なくても生きていくのに全然困らないけど、それがあることで人生が少し豊かに潤うという良さがありますよね。だから、そうして選んで頂けるのは有難いです。

田村 昨日、『ロンドンハーツ』(テレビ朝日・毎週火曜21時〜)という番組で、「ふたりきりで飲みに行ったら、こうなった」というのを追いかけるコーナーを撮ったんですけど、本当に今仰ったことを痛感しました。

 自分が悩んでいたり隠したい部分について、お酒の力でほぐれて言ってしまったりすると、相手に響いて、また違った観点のアドバイスをもらって気持ちが楽になる、というようなことがある。それって、お酒じゃないと無理だな、と思いました。例えば、今もお酒なしで対談してますけど、酒を飲みながら話すと絶対違う話もでてきますよね(笑)。

食の“甲子園”だからこそ
まずパリへ出店

田村 僕は台湾のテレビ局でレギュラー番組『絶対不単淳』を持つようになって、月に2回ほど現地に赴いているんです。あるとき、たまたま僕の誕生日と重なっていて、スタッフが台湾の美味しい和食屋さんで誕生パーティーを開いてくれました。その店でも<磨き 二割三分>が出てきて、内心(<獺祭>は、世界に羽ばたいてるんだ…)と衝撃を受けました。

桜井 私どもの海外初進出は台湾だったんです。2000年正月に、李登輝さんがスタッフの祝賀会向けに<獺祭 磨き二割三分>の新酒を指名してくれたのがきっかけでした。

田村 えぇ! そうなんですか。今や台湾ではかなり見かけます。

桜井 海外も約20ヵ国にお出ししていますが、今夏には初めて直営のレストラン&ストアをパリに出す予定です。獺祭を、美味しい保存状態で、しかも味わいが引き立つ料理とともに楽しんでいただける店です。

 私たちにとって海外で一番大きな市場はニューヨークですが、そこも含めて世界の高級レストランはみなパリを見ています。パリは、食の世界の、いわば甲子園みたいなもの。ですから、まずはパリに、しかも凱旋門近くの一等地に出店することを決めました。

田村 楽しみですね。パリッ子にも、僕たちが飲んでいるのと同じ味の<獺祭>を提供するんですか?

桜井 ええ、私たちは、世界中ですべて同じ商品を販売しています。「おいしいですから、どうぞ飲んでみてください」と胸を張ってね。