経産省資源エネルギー庁(資エ庁)は、長期的なエネルギー需給の方向性を示す“エネルギー基本計画(案)”をまとめました。与党プロセスを経て来月中に閣議決定されるようですが、その内容を一読すると改めて原発に関する政府のスタンスの問題点が明確になります。

不明瞭な原発再稼働の必要性

 第一の問題は、短期的には安全性が確認された原発の再稼働は不可欠であるのに、その理由を国民に分かりやすい形で説得的に示していないことです。

 なぜ原発の再稼働が短期的には不可欠なのでしょうか。最大の理由は、再稼働なしには電力料金が今後更に高騰し、家計と企業を一層圧迫することにあります。既に震災以降電力料金は20%も上昇して世界最高水準になっています。原発が再稼働せずこれが更に高騰したら、それじゃなくても消費税増税、社会保障負担増大、そしてデフレ物価上昇によりこれから負担増に見舞われる家計や企業を一層圧迫することになります。

 実際、ちょうど今週は海外のヘッジファンド関係者が大挙して来日していますが、彼らの多くは、単に彼らが投資している日本企業のコスト構造の問題に限定せず、マクロ経済運営の観点からも今もっとも必要なのは金融緩和第2弾よりも原発再稼働と考えています。

 そう考えると、資エ庁の説明は非情に不明瞭かつ不正確です。エネルギー基本計画以外の様々な資料を見ても、原発再稼働が必要な理由として貿易赤字の増大が筆頭に挙げられていますが、昨年の原油輸入量は対前年比で微減であったことを考えても、原発の停止が貿易赤字増大の主因と主張するのは無理があります。それよりも、製造業のグローバル化の進展やエレクトロニクス産業の国際競争力の低下の方が主因と考えるべきです。

 また、成長戦略で原発の海外展開を進めるためにも再稼働が必要とも主張していますが、これも説得力に欠けると言わざるを得ません。

 エネルギー基本計画はエネルギーの分野だけに閉じた話にならざるを得ないとは言え、原発を再稼働できるかどうかは日本経済全体にとって重要な課題であると同時に国民の大きな関心事ともなっている以上、原発再稼働についてはエネルギーのみの視点に偏らず、経済全般の観点からしっかりと論じるようにすべきではないでしょうか。

 ちなみに、既に日本は原発ゼロで問題起きてないのだから再稼働は不要という意見も未だにありますが、こうしたエネルギー分野に閉じた議論が可能な部分でも、それがいかに非現実的かをもっと国民に分かりやすく説明するようにすべきです。

 

 そもそも今は原発ゼロでも何とかなっていますが、それは老朽化した火力発電所もフルに活用しているからに他ならず、そうした状況を長く続けることはエネルギーの安定供給の面から無理があります。