自分の中途半端さに悩み、1社目の経営から退く

 その後、慶應義塾大学の環境情報学部に入学した私は、当初、社会心理学の研究に関わろうと考えていました。環境情報学部は「課題発見解決型」というキーワードを持っており、私は学際的なアプローチで社会の動態、心理のようなものを探求することに興味を持っていたのです。

 しかし、入学直後から、私は立ち上げから数ヵ月しか経っていない企業の経営に飲み込まれていくことになります。

 なぜ、研究したいという気持ちよりも、彼らとともに戦いたいと思ったのか。それにはいろいろな理由がありました。

 とにかく、「こいつらと挑戦してみたい」という気持ちはあったと思います。また、大学入学前の事業で挫折があり、もう一度やってみたいという想いが後押ししてくれました。そしてなにより、その会社のメンバーが、私から見れば驚異的な技術力を持っており、この力があるなら戦えるのではないか、と思ったのも大きな理由です。

 実際、ウェブをベースにした技術が急速に発達していた時代に、中学生のときからずっとその技術に慣れ親しんでいた友人たちは、大企業が求めるようなシステムもいとも簡単に開発することができました。名の通った企業から発注された仕事を、間接的にではあれ、大学生の会社が受注し、それを納品するという一連の仕事ができたのは誇るべきことだと思います。

 私は、代表取締役COO(最高執行責任者)として、営業の最前線に立って仕事を取ろうと努力していました。今思えば、極めて幼稚なことをしていたのだろうと想像しています。しかし、自分たちはそれを楽しんで、全力で戦っていました。

 なぜ、私はこの最初の会社から離れたのか。

 正直なところ正確な理由は覚えていません。ただおそらく、テクノロジーをベースにしたこの会社における、自分の立ち位置を見失っていたのではないかと、今になって思います。

 中途半端にプログラムができて、中途半端にデザインができて、中途半端に経営がわかっている人間。それが私でした。

 情報技術の世界での強いビジョンがあったわけではなく、また、強いビジョンがあったとしても、それを実現するために必要なスキルセットを持っていたわけではありません。

 一定の成果を挙げたのち、思い悩んだ末に、私は自分よりも優秀だと感じた人に職務をお願いし、この貴重な体験に終止符を打つことになります。