起業を考えたら自分に問いかけたい3つのこと

 この話は、大きな成功は収めていない、しかし、その体験からは多くを学んだ「学生起業家」の簡単な歴史です。また、泥臭く、そして行き当たりばったりの話でもあります。

 きっと、私のような「学生起業家」が当時は何千人もいたのでしょう。彼らの多くも私と同じように苦悩して、多くを学び、しかし大きな成功を経験することはなく、そのまま事業を続けるか、どこかの時点で別の道を選び、そちらに進んでいったのだと思います。

 起業という行為に挑戦し、起業したときのような急成長を実現するのは万に一つでしょう。10に2個か3個が生き残るのだと思いますが、しかし、それが果たして起業した当人の幸せにつながっているのかどうか、私にはわかりません。

 どうして、泥臭く、地べたを這いつくばったような事業経験が、なぜこれほどまでに私を幸せにし、私を成長させたのか。それは、次の点に集約されるのではないかと思います。

  1.新しい巨大な産業が生まれる黎明期の息吹を肌で感じることができた
  2.自分が心から尊敬する人たちと、真剣な時間を共有することができた
  3.小さいながらも自分が創りだした事業で、自分の力で生きていくことができた

 学生として起業するということは、「おそらく自分は失敗する」という厳しい現実に挑戦することでもあります。

 しかし、そのプロセスからの学びが大きいと自分自身が信じることができるのならば、私はそれでも突き進む価値がある選択の1つだと思います。逆に言えば、高尚な夢を実現しようと気負いすぎてはいけないのです。

 私は、以下の3つの質問に対して、どれか1つでも力強く「YES」と答えられるのであれば、学生時代から起業に取り組むのも悪くない、と個人的には思います。なぜなら、失敗しても清々しく、成功するのであれば最高の経験となるはずだからです。

  1.自分が取り組もうとする事業に、心から興奮できるか?
  2.自分がともに戦おうとする仲間を、心から尊敬できるか?
  3.自分が創り出す事業で、自分が生き延びられるだけの金銭価値を生み出せるか?

 このときの経験から、私は、経営学という学問に対する本質的な疑問を持ちました。『領域を超える経営学』(ダイヤモンド社)の第1部でも書きましたが、自分のやっているような現場の泥作業に役立つ経営学の研究が、見当たらなかったのです。

 とても大きな遠回りとなりましたが、この4年間の事業経験は、マッキンゼーでも大きく活かされましたし、研究者である現在の自分の血肉となっています。この経験は決して無駄ではなく、将来を切り開くことになったのです。

 大きな成功をせずとも、その経験をバネに夢を叶えた私からのメッセージは、この程度にとどめておきたいと思います。

 将来のリーダーたちへ。

 今日はこのくらいで。ではまた。

マッキンゼーのコンサルタントとして、世界60ヵ国・200都市以上を飛び回る生活を送っていた琴坂氏。セミ・グローバル化が進む時代、個人にはどのような働き方が求められるのか。第7回は、豊富な国際経験をもとに、国際経営の本質が語られる。次回更新は、3月14日(金)を予定。


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