父親はいたものの別居状態が続き、高年齢化する引きこもり母子の家庭を顧みようともしなかった。

「この息子さんは、引きこもっているのかどうかはわかりませんが、社会との接点がまったくなかったから、無理心中などという道を選択するしかなかったのかもしれません。僕も、相談する相手が誰もいなくて、そのような状況に追い詰められていたら、同じようにして母と一緒に心中していた可能性は大です。話を聞くだけで、涙が出てきます」

40歳を過ぎると職にもつけない
母子で過ごす先の見えない生活

 年老いた親の介護のため、一旦、都会の仕事を辞めて、郷里の実家に帰る人たちも少なくない。しかし、40歳を過ぎると、就職のハードルは一気に高くなる。

「ほとんどの求人は30代までです。40を超えると、仕事どころかアルバイトも少ない。母親の年金だけでは、とても生活が成り立ちません」

 体調不良で退職したAさんも、なかなか仕事に就くことができないまま、15年の歳月が流れ、母親とともに、先行きの見えない生活困窮の中で、日々喘ぎ続けている。

「我が家はまだ母が健康なので、単純比較はできません。ただ、実際に僕の場合は、相談できる相手がいて、物理的にも助けてもらうことができた。『助けて』と、勇気を出してコンタクトを取らなかったら、いま支えてくれている人たちとも知り合えなかったわけで、この世にはもう、いなかったかもしれません」

 多くの場合、家族が引きこもる本人の存在を「家の恥だから」と、近所や友人にも隠すことが多く、家族ごと地域の中に埋没していく。

 もちろん、今回のケースの詳細はわからない。ただ、こうした心中事件などの悲劇が起こるたび、まるでパンドラの箱がパカッと開くように、水面下に見えなかったものが、あるとき突然、噴出して、地獄の底が顔をのぞかせる。