ベンチャー企業の経営者として実務に携わり、マッキンゼー&カンパニーのコンサルタントとして経営を俯瞰し、オックスフォード大学で学問を修めた琴坂将広氏。『領域を超える経営学』(ダイヤモンド社)の出版を記念して、新進気鋭の経営学者が、身近な事例を交えながら、経営学のおもしろさと奥深さを伝える。全15回連載の最終回。
シナリオ分析で導く超長期の経営戦略
今回で、『領域を超える経営学』(ダイヤモンド社)の発売をきっかけに始めた連載は最終回となります。まどろっこしい話におつき合いいただき、誠にありがとうございました。
拙著『領域を超える経営学』について、内容に関する妥協は一切ありません。経営学という学問が積み上げてきた研究成果に厳密に、また物事を単純化せず、できるだけ複雑なままに、噛めば噛むほど味が出る書籍に仕上げようと苦心した作品です。
そのため、本書は極めて論理的に構成されています。また、より深く国際経営という行為について考えてもらえる作品とするべく、欧米の最新の研究成果(200以上の論文と書籍)を解説に織り込みました。
結果的に、とくに経験が豊かな経営幹部の方々や、国外でも活躍される国際経営の研究者の方々には、恐縮してしまうほど高い評価をいただきました。一方で、複雑なものをあえて複雑に表現したため、自己啓発書のようにシンプルさを重視した経営書を期待されていた方のなかには、「難解だ」「読みにくい」と感じられた方もいるようです。できるだけ門戸を広くして多くの方々に読んでいただきたいと考えていたため、これには申し訳ない思いです。
さて、こうした反響の多くは、事前に想像できた部分も多くあります。しかし同時に、なかなか予想しにくかった部分もありました。
このように、予測できる範囲と予測できない範囲があることは、国際的な経営環境を語るときと通じる部分があります。国際経営に関連する技術の進化や、世界経済の方向性を考えるときには、ほぼ間違いなく進行していく流れの存在を意識するとともに、予測のしにくい、突発的な可能性をも想定しなければならないのです。
そこで本連載の最終回では、少しずつ日本でも定着しつつある、超長期の経営戦略を導く思考方法の「シナリオ分析」について、拙著の第22章の解説をもとにしながら、簡単に触れてみたいと思います。