シナリオ分析でオイルショックを乗り越えたシェル
複雑な経営環境においては、未来を“幅”で予測し、幅を持った戦略、打ち手のパッケージを構築する「シナリオ分析」の考え方が広まりつつあります。これは、決め打ちで予測するのではなく、未来を左右する要因を構造的に把握し、その構造がもたらす異なる未来の可能性をシナリオとして複数つくることで、より実践的かつ現実的な超長期の予測と、その対応を講じる方法論です。
言い換えると、特定の経営環境を想定し、それに基づいて特定の数値目標を決め、状況が変わるにしたがって少しずつ修正していくのではなく、あらかじめ“ブレ”る可能性を予期し、そのブレに備えることでもあります。
キース・ヴァン・デル・ハイデン氏の『Scenarios』(※3)によれば、こうしたシナリオ分析の考え方を、継続的に将来予測と戦略構築に活用したはじめての企業は、エネルギー会社のシェルであるとされています。
投資から収益を得るまでの期間が数十年にもおよぶエネルギー産業において、不確実性に対して対応するこうした考え方を採用するのは、とくに大きな意味があります。実際、シナリオ分析を採用することにより、シェルはオイルショックの可能性に備えることができ、それにより石油メジャーの強豪の一角に踊り出ることができたとも言われています。
また、フィンランドの船舶用機械メーカーであるバルチラが公開する「Shipping Scenarios 2030」(*4)や、世界的な運輸会社のDHLが公開する「Delivering Tomorrow」(*5)も、シナリオ分析という方法論を知る際におおいに参考になります。
この両社も、マクロ的な世界経済の方向性によって大きく左右される事業を抱えており、また投資に対する収益を得るまでの期間も比較的長い産業と言えます。しかしもちろん、こうした産業以外でも、シナリオ分析の考え方は十分に価値のあるものと言えるはずです。