シナリオ分析の実践に大切な3つのこと

 シナリオ分析の方法論にはおそらくさまざまな“宗派”があり、それぞれに考え方の違いがあるようにも見受けられます。

 実際、シナリオ分析に関連した書籍はすでに数多く存在しており、それぞれで内容は少しずつ異なります。たとえば、さきほど紹介した『Scenarios』の他にも、『Scenario Planning』(*6)は図表が多くイメージが掴みやすいため参考になると思います。

 ただ、そうした方法論の違いを超えて重要なことは、予測が合っていたかどうかではなく、その予測を通じて未来を左右する要因を理解し、現在の行動に落とし込めるかどうかだと言えます。

 私がシナリオ分析を活用した将来予想に関わった際、検討にあたってもっとも重要なことは、どの予測がもっとも確からしいかを議論すること以上に、次の3つを明らかにすることでした。

  1.これらの予測のいずれかが現実となるとするならば、いまから行動を起こさなければならない物事は何か。

  2.いまから行動を起こす必要はないが、特定のパラメーター(指標)が特定の閾値を超えた場合、即時に行動を起こさなければならない物事は何か。

  3.これらのシナリオが持つ予測の振れ幅の範囲を、逸脱するような変化をもたらす可能性(「ワイルド・カード」)は何か

 第一の要素としては、これらすべてのシナリオが実際に起こり得るという前提のうえで、いまから行動しておかなければ致命的となる打ち手はないか、あるいは、いまから行動しておけば圧倒的優位に立てるような潜在的な打ち手はないか、を議論するということです。

 そして、第二の要素は、いずれかのシナリオに世界が向かい始める未来の分岐点、変化の兆候を示せるような、決定的な統計指標や経営指標は何かを判断することです。そして、その閾値を超えた段階で、行動しなければ手遅れになるような致命的な打ち手、行動すれば優位に立てるような打ち手を明らかにします。

 さらに、第三の要素は、一定の前提をおいて考案されているこのシナリオのセット、つまり、可能性が広がる範囲(スコープ)を著しく変えるような突発的な可能性をできる限り網羅的に把握することです。万が一、その可能性が発生したとき、すぐに、何を、どのようにしなければならないかを事前に準備する必要があります。

 すなわち、私が理解し、また実践した経験のあるシナリオ分析は、一定の幅を持った将来予測をもとに、一定の幅を持った戦略構築を行い、その範囲内で濃淡を持った柔軟な打ち手を実行しつつ、幅の範囲が急速にブレる瞬間の可能性を耐えずモニタリングする、戦略構築の方法論とも言えます。

 シナリオ分析とは、動的に変化し得る戦略の打ち手を事前にプログラムする方法論、とも言えるかもしれません。

 未来のゆらぎの可能性を、構造化された要因の変数群で定義し、その変数の集合体が一定の値を示したときには、事前に検討した打ち手のパッケージをデプロイ(配置)して、即時の対応を目指します。さらに、その変数群全体が異常値を示す可能性をも予期することを目指し、異常値が発生した瞬間の応急対応までもを戦略構築に組み込むのです。