ハイブリッド車のヒットでにわかに活気づく国内自動車業界。今夏には量産型の電気自動車も登場する。政府は2020年までに新車の半数をこういった次世代カーにする方針を掲げた。

 だが次世代カーの普及は同時に部品原材料の希少金属(レアメタル)の調達問題を引き起こす。すでに世界で争奪戦は始まっている。

 自動車部品にはこれまでもエンジンの点火プラグや排ガス浄化触媒の原材料になる白金など、多数のレアメタルが使われているが、次世代カーとなるとバッテリーやモーター、それらに付随する電子制御とさらにレアメタルが必要になる。

 たとえば電気自動車用のリチウムイオン電池はリチウムやコバルトを原材料とするが、「それらの資源は世界埋蔵量1100万トンのうちほとんどが南米や中国に偏在しており、電気自動車が世界で広く普及する15年から20年にかけて調達問題が顕在化する」(吉村尚憲・三菱商事副社長)。

 東京大学生産技術研究所の岡部徹教授は次世代カーの普及でレアメタルが「枯渇することはない」が「供給不安や価格の乱高下はよりいっそう増す」と指摘。特に危惧されているのが高性能モーターに必要な希土類金属ネオジムとジスプロシウムだ。現在世界生産の九割を中国が占め、かつ中国政府は輸出に制限をかけているため、急増する需要に供給が追いつくのか疑問視される。

 また、中国は自国内にとどまらず、他国のレアメタル資源にも手を伸ばし始めた。技術支援を持ちかけ、鉱山を持つアフリカや南米諸国に食い込み、今年に入ってからは、もともと地元資本で立ち上がったが、不況のため頓挫したオーストラリアの鉱山開発にも資本参入している。

 こうした動きに自動車メーカーは危機意識を募らせる。20年に全車種ハイブリッド化を掲げるトヨタ自動車はグループ商社の豊田通商を通じ、インドやベトナムで希土類金属の鉱山開発を含めた事業を昨年末から本格的に始めた。

 三菱自動車は三菱グループの強みを生かして電気自動車のリチウムイオン電池資源を確保する。三菱商事、住友商事、石油天然ガス・金属鉱物資源機構は共同でボリビアのリチウム資源を開発する。

 じつは鉱物資源は中央アジアやロシアにも眠っており、まだ本格的に手がつけられていない状態。世界中が虎視眈々(たんたん)と狙っているが、日本企業も真剣に乗り出せば、チャンスはある。自動車メーカーは資源ナショナリズムに翻弄されることなく、レアメタルを確保することが急務となっている。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 柳澤里佳)