ともに東京教育大学附属高校(現筑波大学附属高校)の出身であり、アメリカに留学し、マッキンゼーでキャリアを積み、現在は大学で教鞭を執るという多くの共通点を持つ慶應義塾大学特任教授・高橋俊介氏と京都大学教授・河合江理子氏。日本を知り、世界を知る二人から、日本の就職活動やキャリア教育に対する違和感、世界で通用する人材を育てるために必要なことなどが語られる。河合氏と高橋氏による対談は全3回。
キャリアの80%は偶然の出来事が決める
高橋 いまの学生は、とても功利的になっています。損得でものを考える。たとえば、思いきって海外に留学することにしても、結果的にどういう形で自分のキャリアに資するかなんて、やってみないとわかりません。でも、やってみなければわからないことを、やる前に損得で考えてしまう。
河合 それはあると思います。
高橋 リスクばかり高くて、どれだけいいことがあるんだって考えるのだと思います。でもね、時間が経てば、いろいろな要素が長期にわたって変わってくるわけですよね。もちろん、マイナス面もある。そんなことを、その時点の自分が持っている情報で的確に判断できるわけがありません。
河合 『自分の小さな「鳥カゴ」から飛び立ちなさい』(ダイヤモンド社)で書いてあるように、私の場合、ハーバード大学を卒業して日本に帰国した最初の就職先では、アシスタント的な仕事で本当にがっかりしました。ただ、いまの自分があるのは留学したからだと思っています。自分のやりたいことを若いときにできたのが本当に役立っています。
高橋 損得で考えれば考えるほど消極的になり、結果的には自分にとって損となる決断をするようになります。でも、やってみないとわからないことのほうが圧倒的に多いにもかかわらず、いまわかっている範囲の損得で考えてしまう。結果、損な決断を繰り返していく、というパターンになっていますね。
おそらく、自分の人生、自分のキャリアは自分で決めて、自分一人でつくっていけるという大きな誤解がそこにあるのが最大の理由だと思います。それはできないんだ、ということをまず認めなければいけません。
河合 それは、クランボルツ教授の話につながりますね。
高橋 そう。スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授によると、自分のキャリアの80%くらいまでは、偶然の出来事によって左右されていることが明らかになっています。つまり、ほとんどが自分でもわからない偶然に左右されるわけです。いまわかっている情報だけで、海外に行くことが得か損かとか考えると、結果、損になります。