直感的な意思決定がよい結果を導く

河合 その場合、自分の気持ちに素直になれ、ということがアドバイスになりますか?

高橋前回も触れましたが、よく言うんですよ、結婚の決断も似たようなもんだと。ある心理学の研究者が、結婚した人を対象に「満足度の高い結婚になったかどうか」を調べていました。結婚する前にどのくらいの期間を悩んだかと満足度の相関を取ったら、どうなったと思います?即決即断でほとんど考えなかった人も、長く考えすぎた人も、どちらもうまくいっていなかった(笑)。当たり前なんですけどね。

河合 どうなるかは、やってみるまでわからないということですね。

高橋 ある程度まで悩んだら、あとはもう「えいや!」で行くしかないと。ハリィ・ジェラットというアメリカの学者による意思決定理論をご存じですか?彼は、キャリアというのはいろいろな要素によって決まるので、合理的ではなく直感的に決める以外ないと言っています。直感的な意思決定のほうが、結果的にいい方向に進める確率が上がる、そして直感力は鍛えられると言っているんですよ。

河合 直感力は鍛えられる、とは?

高橋 大前研一さんの『右脳革命』(プレジデント社)にもありますけど、「こうなったら、こうなる」と、ありもしないことでもいいからイメージングしろと。脳科学者が言う「感情予測機能」という脳の機能があるそうです。

 たとえば、この会社に就職したら、この会社で実際に働いてみたら、と考えると、それなりに直感に関わるいろいろな肌感覚の情報も含めて必要ですよね。右脳で想像したときに、そのときの自分は幸せか、幸せじゃないかを直感的に感じ取れというんですよ。

河合 私は直感にも頼りますが、いろいろな方の話を聞いてできるだけ情報を得て判断します。その考え方はおもしろいですね。

高橋 でも、いつも現実的な損得ばかりを考えていると、その機能はだんだん弱まってきて、使えなくなってしまうのです。

河合 自分の本にも書いていますが、私もやりたいと思うことがあったときはイメージングして、そうなった自分を想像して、すごく幸せな気分をつくります。

高橋 モチベーションを上げるためにもそれは重要なことなんですよ。

河合 いままでの私のキャリアチェンジを考えてみても、本当にやりたいことは別にして、迷ったときは自分の直感に頼ってきたところがあります。アドバイスを積極的に求めましたが、そのアドバイスを信じるか信じないかも直感で決めましたね。

高橋 そこで分かれ道がありますね。この会社に入る、入らないで悩んだときに、う〜ん、と考えて良いイメージが湧いてこなければ、やめておいたほうがいいと思います。

河合 そうですよね。そこでイヤなイメージしかなければ、やってみてもダメですよね。

高橋 いいイメージが湧いたって思いどおりいかないことがあるわけだから、いいことがない(笑)。会社でも「現実を見ないで夢みたいなことを言ってるんじゃない!」と言われて、地に足がついて、合理的かつ損得でものを考えてばかりいると、だんだんこういう機能が弱ってくる。そうすると、いまみたいな先の読めない時代、大きな決断のときに失敗する可能性が出てきますよ。

河合 自分のことを考えても、細かいことばかりを決断していたら、決断力がどんどん弱くなってきていると思います。身近なことだと「○○に行くなら、どこの飛行機会社がいい」とか(笑)。

高橋 こっちのほうがマイルの溜まり方が得だ、あるいは損だ、とつい考えますけど、そういうことばかりを考えていると楽しい旅行はできなくなってきますよね。