世界における米国の指導力が衰えてきたと言われる原因の一つは、米国の軍事力行使の敷居が高くなったことにある。リビアのカダフィ掃討の軍事作戦には英仏が中核的役割を果たし、シリアの化学兵器使用については従来述べていたレッドラインを超えたにもかかわらず、オバマ大統領は軍事行動を躊躇した。ウクライナについても、早々と軍事力を行使する余地はないということを明らかにした。

 5月28日のウェストポイント陸軍士官学校の卒業式における演説で、オバマ大統領は、「米国は自国民や同盟国の安全が脅威にさらされる場合には軍事力を一方的に行使するが、アメリカに直接的脅威をもたらさない場合には同盟国などと共に集団行動をとる」と言っている。問題は、何がアメリカの安全に直接脅威を与えるかということであり、その1つの例が現在のイラク情勢である。

 イラクにおけるアルカイダ系武装組織ISIS(イラク・シリア・イスラム国)の浸透に対して、オバマ大統領は地上兵力を送ることは否定した。場合によっては、空からの攻撃を行うということも想定されるが、どういう行動をとるかによって米国の指導力についての将来の方向性が決まるきっかけとなるのだろう。

米国の指導力の変化と抑止力低下への懸念
「対中戦略」はいまだ定まっていない

 このような米国の指導力の変化により、最も切実な形で影響を受けるのは東アジア地域である。

 米国が2011年に発表した「ピボット」や、最近言われている「リバランス」という政策は、アジアについて米国の関心とコミットメントを高めていくということを示していくものだと言われている。

 これまで、米国の対中戦略は「関与」(エンゲージメント)と「牽制」(ヘッジング)で説明されてきた。より端的に言えば、米国の対中政策は個々の問題で対話により解決を進めるという、いわゆる「協調的側面」と、中国の個々の行動に対して軍事的に抑止力を強化していくという「競争的側面」のバランスによって構築されている。