「実は消費増税の駆け込みで注文していただいたのに、まだ届けられていない商品があるんですよ」

 大手家具販売会社の幹部は、こう声を潜める。この半年、日本中で「モノを運ぶ」ことに関して、大異変が起こっている。「運べない」「運ばない」と、多くの運送業者が断っているのだ。

 インターネットによる通信販売の追い風を受けて、宅配便は急拡大した。1997年に15億個だった個数は、2012年には35億個にまで膨れ上がった。これにより、物流網がパンクしたのだ。

 中でも、年末商戦で需要が拡大した13年末と、消費増税の駆け込み購入があった14年3月末、期日通りに届かないケースが日本中で頻発したのだ。

 都内に住む男性は「4月に1週間もミネラルウオーターが届かないので確認したら、佐川急便の拠点で止まっていた」と憤るが、冒頭のようにいまだに届けられていない商品もあるくらいだから、1週間はかわいいものかもしれない。

 むろん、混乱に巻き込まれたのは個人だけではない。企業も同様だ。消費増税による駆け込み需要の大混乱のさなか、ある企業の物流担当者はヤマト運輸の担当者から「会社からは新たな依頼は受けるなと言われて。社内文書まであるんですよ」と告げられた。ヤマトの担当者は、「社外秘なので渡せない」と言いつつ、説得するため、その文書をちらりと見せてきたという。

 他にも、この半年で、運送業者に「ノー!」を突き付けられた荷主を挙げれば切りがないほどだ。

 大手運送業者が荷主の依頼を断るだけでなく、下請けの運送業者が、「元請けである大手に対して、〝運ばない〟と伝えるケースが増えている」(中堅運送業者)という。

まさしく、「運ばない、運べない」の連鎖が起こっているのである。

 運送業界に長く関わるある企業の幹部は「バブル期を含めて、この30年間でここまでの事態は初めて見た」と明かす。

「運べない」「値上げ」
は長く続く構造的問題

「3月末の混乱を繰り返すのか」。今、宅配業界と小売業界の関係者が心配しているのが中元商戦だ。

 中元の到着は、7月1日近辺に集中している。その上、冷蔵品が含まれていることも多い。これがくせもので、実は、宅配業者を困らせるのは、大きい荷物と冷蔵・冷凍の荷物だ。大きいものは場所を取るし、冷蔵・冷凍には特別の設備が必要になるからだ。

 振り返れば、13年の夏、ヤマトがクール便を、ずさんに取り扱っていたことが発覚。自社の拠点で冷蔵庫に入り切らずに、常温で仕分けされるケースが頻発していたのだ。

 ある食品会社では、冷凍菓子の試作品を遠方から本社に取り寄せようとしたところ、3回依頼して3回とも「届いた時点でドロドロだった」(関係者)という。騒動で反省したヤマトは大幅に体制を見直し、この夏を迎える。

 ちなみに、ヤマトの肩を持つわけではないが、ヤマトは利用者への調査では、宅配業者の中で最も高い品質という評価が定番となっている。そのヤマトでさえ、クール便の需要増には耐え切れなかったのだ。

 混乱を未然に防ぐため、今年は、中元を多く扱う百貨店などに対して、宅配業界が配達日の分散を要請している。ところが、強かな大手宅配業者はそれと同じタイミングで「値上げを要求している」(大手百貨店関係者)のだ。

 宅配業者は寡占状態で、大手が値上げを要求してくれば他の選択肢はほぼゼロだ。別の大手百貨店では「やむなく大型の保冷便については値上げを了承した。あるサイズでは送料が一気に3倍に跳ね上がった」という。今年は百貨店側が負担し、消費者に転嫁しないというが、今後は分からない。

 宅配業界は、長年、赤字覚悟のダンピング営業を続けてきた。需給逼迫に合わせてそれを一気に是正しようと、中元商品以外でも全国で値上げ交渉が行われている。

大手宅配業者のみならず
陸海空の物流大異変に密着

『週刊ダイヤモンド』7月5日号の特集では、「物流ビジネス大異変」と題し、数十年に1度ともいわれる物流業界の異常事態を紹介しています。

 インターネットによる通信販売の増加を背景に、宅配便の利用が拡大。その結果、大手宅配業者のみならず、下請けの長距離運送会社も含めて日本の物流はパンク状態にあります。特に大きい荷物や、冷凍・冷蔵の荷物に対しては、「運べない」「運ばない」と断るケースが多発。同時に、運送会社は荷主に対して、値上げの要求をし始めています。

 実は、パンクの原因は需要増もさることながら、2015年には14万人も不足するという、圧倒的なトラック運転手不足にもあります。つまり、今年の中元商戦を乗り越えてもまったく安心できない、構造的な問題なのです。

 この状態に危機感を感じた企業は、これまでにない驚きの改革に乗り出しました。味の素のように長距離輸送をトラックから、鉄道・船舶輸送に乗り換える会社も登場。その結果、大混乱の中、脇役に甘んじていた、鉄道・船舶、倉庫などの事業者が今、注目を浴びています。

 6月28日には圏央道の部分開通によって、東名高速、中央道、関越道が直結されるなど、インフラ整備も進んでいます。高速道路の沿道をめぐる物流施設の陣取り合戦で、巨額のマネーが流れ込んでいる様も描いています。

 さらに、大手宅配業者がライバルとして見ているセブン―イレブンの物流戦略のすごみも紹介。また、物流事業から一歩身を引くこととなった楽天の内幕にも触れています。 

 特集では、大きな図版をいくつも使い、この大混乱の原因を解説するとともに、「あなたのもとにモノはどのように届くのか」ということも図解しています。もはや物流と無関係で暮らすことは難しいです。今の異常は無視できません。ぜひ、ご一読いただければ幸いです。