「俺のそばにいろ」と、俺は言った。「もうつまらないことはするな、そこそこのカネは稼げるようにしてやる」

故郷であるブラウンズヴィルで群衆に取り囲まれるタイソン。有名になってからも地元仲間と付き合い続けた。(Photo:© Lori Grinker/Contact Press Image)

「お前からカネを受け取れるかよ、マイク」と、あいつは言った。「お前だって、周囲のやつらにごっそりカネをむしり取られてきたんだろう」

 ショーティ・ラヴは根っからのギャングだった。対立するふたつのギャングの麻薬抗争に巻き込まれ、出所から半年後に撃ち殺された。なんでこんなことになるんだ? 古い友人はみんな、殺されたり、誰かを殺したりしていた。みんな、麻薬とセックスと殺し合いに巻き込まれはしたが、根は善良な人間だったはずだ。

 ショーティの葬儀代は俺が払った。あいつに敬意を払おうと大人数が駆けつけてきたから、ブルックリンの豪奢なイタリア式の葬儀場を貸し切りにして、さらに部屋を3つ付け足した。

ギャングへの制裁

 だから、イギリス行きの飛行機には試合のために仕方なく乗ったんだ。ロンドンに着くなりロシア人の女(高級宝石店に勤めていた絶世の美女)に電話をしたら、〈グラフ・ダイヤモンド〉から解雇されていた。フランソワ・ボタ戦でロンドンにいたとき俺にくれた宝飾類の代金を、プロモーターのフランク・ウォーレンが支払わなかったせいだ。さらにまずいことに、〈グラフ〉は俺を訴えると言っていた。トレーナーのトミー・ブルックスに頼んで、ウォーレンをホテルの部屋へ呼んでもらった。

 ウォーレンには、ドン・キングと同じく、ギャングの一員という噂があった。だからヨーロッパのボクサーはみんなあの男に恐れをなしていた。そんなわけで部屋に入ってきたとき、あいつはふんぞり返っていた。

「あんたが買ってくれた例の宝飾類だが、いっこうに支払いをしないそうだな」と、俺は言った。「ドン・キングとは友達か?」

「ああ」

「俺に敬意を払わなかったときどんなことが起こったか、ドンから聞いていないのか?」

「おお、聞いているとも。ボコボコにされたそうだな」

「それを聞いてどう思った?」

「いや、何も」と、あいつは見下したように言った。