それだけ言って、さっさと引き揚げた。こんな大言壮語を吐いたのは、麻薬で高揚するあまり、頭がいかれていたからだ。台詞は〈五毒拳〉みたいなショウ・ブラザーズのカンフー映画からのパクリだ。お気に入りの漫画の登場人物、アポカリプスの台詞も使っていた。あいつは悪党のくせして、いつも高潔な話しかたをした。「俺を見て震えろ。お前の世界に混じりけのない忘却をもたらしてやる」なんて。俺はちびのころからああいう大口をたたいていた。赤ん坊を食らってやるというのは、WWFのレスラー特有の言葉遣いだ。手に負えない悪党を演じていたが、じつはショーマンだったんじゃないか。
ロンドンに戻ると、俺はまたフランク・ウォーレンを探し始めた。殺してやる気だった。眼窩と頬骨とあごを骨折したのに、それでもあいつは試合場に現れた。しかし、ロンドンに戻ると行方をくらました。「デイリー・レコード」紙がフロントページに、未払いの宝飾類代金63万ドルをめぐって俺がホテルの部屋であいつを襲ったという記事を掲載した。ウォーレンはその記事を「まったくのでたらめだ」と否定した。
「彼を殴ったんですか?」記者会見で質問が飛んだ。
「いや」
「窓から投げ飛ばそうとしたんですか?」
「いや。フランク・ウォーレンのことは愛してる」
アメリカへ戻ると、保護観察官がサヴァリース戦後のコメントとウォーレンへの暴行疑惑を憂慮していた。それでも、弁護士のダロウ・ソールが全部解決してくれた。
(続く)