雑誌「ワイアード」の編集長で「ロングテール」の概念を提唱したクリス・アンダーソンの新刊『フリー』(高橋則明訳、NHK出版)を読んだ。財やサービス、特にインターネットを通じて受け渡すコストが安い情報(デジタル化された知識もプログラムも含む)をフリー(無料)にして潤沢に提供し、これに関連して発生するなんらかの稀少性に価格を付けることによって、ビジネスの成立がいかに可能であるかが、生き生きと書かれた刺激的な本だ。
目下、フリーの世界の最大の成功者はグーグルだ。同社は、検索をはじめとする各種の機能・サービスをフリーで提供し、そこに生じたユーザーの注目を広告の場として価格づけすることで大成功している。財やサービスをフリーで提供するためには、生産の限界コストがゼロに近くなければならないが、デジタル化された知識・プログラム・画像(動画も静止画も)・音楽などはフリーの対象になりうる。アンダーソンによると、デジタルなものはフリーになりたがるという法則がある。
フリーを利用したビジネスモデルには3つのパターンがあるという。1つは「直接的な内部相互補助」で、携帯電話は無料だが通話は有料、ストリップショーは無料だがドリンクは有料といったモデルだ。2番目はある顧客グループが別の顧客のコストを補う「三者間市場」の仕組みで、女性は無料だが男性は有料といったバーがこのパターンだ。3番目は「フリーミアム」と著者が呼ぶモデルで、一部の有料顧客が他の無料顧客のコストを負担する。ゲームは無料だが深く楽しむための会員登録は有料といったオンラインゲーム、基本版は無料だが機能拡張版は有料のソフトウエア、低品質のMP3は無料で高品質のCDは有料の音楽販売のような仕組みだ。フリーで集めた巨大な数の中に「プレミアム会員」的な積極的に有料を受け入れる客がいる。