根拠と創造性の関係
アイルランド出身でロンドンの建築会社で働いた後、アルキメッドで働くため2年前にデンマークに移住された、クレア・オトュールさんです。
「確かにデザイナーからは、エビデンスがなければいけないなら、新しい考え方もできないのではないかといった懸念を耳にすることがあります。でも私はそれに強く反対します。むしろエビデンスは創造性の道を開くものだと思います。
新しいエビデンスを生み出せるアイディアを考えることが、エビデンス・ベースド・デザインのコアなのです。新しいアイディアを考えて、それが本当に機能するものだと証明できればいいのです。
エビデンス・ベースド・デザインの最も優れた点は、スノーボール・エフェクトで常にシステムの中に新しいエビデンスが流れ込むことにあります。より多くのリソースを創出することができ、そのリソースに多くの人がアクセスできるのです。
その辺りにあるエビデンスだけが、最高の建物を作るのではありません。最高のエビデンスを作るために、建物を“使う”のです。何かをデザインするとき、私たちはこれがどのようにこれが機能して、どんな結果を生み出すのか、自分自身に挑戦をし、問いかけるのです。そうすれば、次の建物を作るときにその知識を使えます。他の人も同様にそのエビデンスを使うことができるのです」
根拠と創造性とは相反するものにも思えましたが、制限があるからこそ発揮できる創造性がエビデンス・ベースド・デザインのプロセスのカギではないかと感じました。社会に新しいものを生み出そうとするとき、過去に学びながらそれだけに執着することなく、過去のシナリオを塗り替えるためのクリエイティブなリーダーシップが必要とされるのです。
特に人の健康に関わるヘルスケアの分野は、常に今あるものだけで満足という考えは通用しません。その意味では幸福大国と呼ばれるデンマークでも幸福の定義は、危機的な状況では徐々に変化するものではないかと感じています。
すでにあるものは不完全だと受け入れて、変えることに幸せを感じること。自分にしか、できないことが世の中にはあります。様々な壁を乗り越える必要はありますが、そのような生き方は結果的に多くの人に生きる力を与えるのではないでしょうか。
アーキメッドを立ち上げたデンマーク人の女性起業家、ペニラさんが自分の人生を変えたというこの問いかけで、「幸福大国デンマークのデザイン思考」の最終回を締めくくりたいと思います。
「あなたが取り組んでいることを止めたとしたら、世界は何を失うのでしょうか?」
今回でこの連載は終了となります。
ご愛読ありがとうございました。
大本綾(おおもと・あや)
1985年生まれ。立命館大学産業社会学部を卒業後、WPPグループの広告会社であるグレイワールドワイドに入社。大手消費材メーカーのブランド戦略、コミュニケーション開発に携わる。プライベートでは、TEDxTokyo yz、TEDxTokyoのイベント企画、運営に携わる。2012年4月にビル&メリンダ・ゲイツ財団とのパートナーシップによりベルリンで開催されたTEDxChangeのサテライトイベント、TEDxTokyoChangeではプロジェクトリーダーを務めた。デンマークのビジネスデザインスクール、The KaosPilotsに初の日本人留学生として受け入れられ、2012年8月から留学中。
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