米国への直接投資「半年で倍増」、補助金を使わない“強硬交渉”で誘致するトランプ氏の剛腕と落とし穴Photo:PIXTA

予測不能な関税戦略を通じて、トランプ米大統領はわずか半年で米国への対内直接投資を急増させた。補助金を伴わずに投資を呼び込む“強硬交渉術”は、各国の誘致戦略を凌駕しつつある。だが、その覇権の持続性はどうか。日本の現状や歴史の教訓と照らしながら検証する。(ピクテ・ジャパン シニア・フェロー 大槻奈那)

トランプ関税がもたらした
対内直接投資倍増という成果

 トランプ2.0は、予測不可能な外交を世界に突きつけた。その中で、就任後わずか半年で驚異的な成果が積み上がっているのが対米直接投資である。

 日本を含む諸外国の要人がトランプ氏と直接の対話を持つ動きは、4月の相互関税発表後に加速した。これらの成果として、米国は、これまでの累計で総額3.9兆ドル(約570兆円)にも及ぶ対内投資の内諾を得ている(図表1参照)。

 数年にわたるプロジェクトもあるが、年平均を取っても110兆円を超える投資額となる。これは、米国の2023年の年間対内直接投資額(フロー)の2倍を超える。

 注目すべきは、これらの投資が補助金という直接的な“アメ”を与えて得られたわけではない点だ。もちろん、今後一定の優遇措置が与えられる可能性もあるだろう。

 しかし主な攻め口は、初手として過大な関税を提示し、そこからの“引き下げ”を交渉材料としたり、安全保障との総合的な交渉の一環で投資を促したりという、極めて“新手”で“手荒”な交渉だ。

 投資誘導戦略自体は目新しいものではない。むしろ、世界中で産業誘致合戦が熾烈になる中での動きである。

 次ページでは、自国への投資誘導競争の実態に触れつつ、トランプ氏による投資獲得戦略の行く末について検証する。