心も体もつながった双子の姉妹は、
なぜ遺伝子が同じなのにまったく違うのか?
成長するにつれ、独立したひとりの人間になりたいという思いが募ってきたため、6年の歳月をかけて、分離手術を引きうけてくれる医師を探した。しかし、死んでしまう危険性が非常に高かったので、経験豊かな医師たちはそれを引きうけようとしなかった。なにしろふたりは、脳の真上から後方へ走る主要な静脈、矢状静脈洞を共有していたのだ。
それでも、2003年になって、ふたりはついにシンガポールの熟練の神経外科医、キース・ゴーを説きふせた。ゴーは、危険を覚悟のうえで執刀に同意した。彼は、かつてもっと若い双子の分離手術に成功していたが、ラレとラダンの場合、成功率は5分5分と見ていた。
シンガポールの蒸し暑い7月の朝、手術は、MRIでふたりの脳をスキャンするところから始まった。4ヵ国から28名の外科医が結集し、手術スタッフは数百名にもなった。費用は数百万ドルにのぼり、手術台も特注で、歯科用治療椅子をふたつつなげたような形をしていた。イランのテレビ局が手術の進行状況を逐次報じた。手術は52時間に及んだ。
重要な段階で中断したものの、最終的にふたりの頭は分離された。だが、スキャンした画像から医師たちが予測していた以上に、ふたりの脳は融合しており、共有していた複雑な血管からの出血を止めることができなかった。チームの懸命の努力にもかかわらず、どちらも意識を回復しないまま、じきに亡くなった。ふたりが書いた手紙が、手術当日に病院のウェブサイトに掲載された。
「わたしたちは毎日、手術が成功することを祈ってきました。手術が成功して、この困難な人生に終止符が打たれ、別々の人間として新たな素晴らしい人生を歩みはじめるのを楽しみにしています」
ふたりの願いは叶った。別々の人間となって彼女らは死んだのだ。そして、別々の――隣りあわせではあったが――墓に納められた。
幸い、結合双生児が生まれるのは稀だ(出生200万件につき1件)。それでも、ラレとラダンの話は、遺伝に関する重要な謎を浮き彫りにする。わたしたちと親や兄弟は、総じて似通った遺伝子や環境を共有しているが、性格、趣味、体格、健康状態は大きく異なる。遺伝子と環境が同じなのに、なぜ、どのようにして違いが生じるのだろう。