自分ならこうする、という
イメージを持ってコンサルに依頼する

並木 耳の痛いご指摘です。では、3つ目のプロジェクトはどんなものですか?

村野 グローバルの小売部門のヘッドに就いて販売店の改革をしたのが3つ目のケースです。仲間内では「武家の商法」なんて言っていましたが、メーカーであるソニーは小売が決して得意ではありませんでした。そこで小売業界では顧客行動分析や店頭マーケティングで著名なパコ・アンダーヒル氏に協力を求め、まずはひとつのお店をモデルケースに問題点の分析を行うことにしました。

 彼が何をしたかというと、店にビデオカメラを設置して、お客様の行動を徹底的に撮影したんです。それまで私たちは、自分たちが生み出した商品がどう見えるのかばかりを気にしていたんですが、彼との仕事を通してお客様を見ることの大切さを教えられました。

 結局、そこで得た知見をベースにして彼の会社に処方箋をつくってもらい、各店舗を活性化させる改革に着手しました。それぞれの店づくりに際しては、デザインやマーチャンダイジングなど各領域に強い専門的なコンサルティング・ファームをコンペで選び、実行部分は自社のスタッフに担当させることにしました。最初からリソースを意識したうえで、まずは問題点の明確化、次にデザインといったようにピンポイントで専門家の力を借り、新しいお店に生まれ変わるところまで付き合ってもらったのは良いやり方だったと思っています。大手コンサルティング・ファームにトータルプロデュースのような形でお願いするよりも、納得感のある進め方ができました。

インタビュアーの並木裕太さん

並木 なるほど。ソニーでの3つのプロジェクトを通して、戦略立案は自社のリソースを前提とすること、ゴールまで一緒に歩んでくれることがポイントとして明確になってきた、と。

村野 そうですね。もうひとつ挙げるなら、私は「自分だったらこうする」というイメージをしっかりともったうえでコンサルティングを依頼するようにしています。全く見当もつかないことを頼んでも、提案されたアイディアに対して判断しようがありませんし、ありがたみも分かりませんからね。

 もちろん、自分なりのアイディアはあるのにゴールがうまく描けないこともあります。そういう時に、コンサルタントの方との議論を通して頭を整理し、ゴールを絞り込むことは重要です。ゴールの再確認を怠ったままプロジェクト化してスタートしてしまうと、後で気づいても引き返せず、お金の無駄になってしまう可能性が大きいと思います。