平均勤続年数は約3年とも言われるように、コンサルティング業界は人の出入りが激しいことで知られる。コンサル出身者は人材としてどう評価され、採用する側はどんな活躍を期待しているのだろうか。中途採用を積極的に実施するなかで、コンサルタント出身者の採用・活用にも一日の長があるヤフー株式会社の川邊健太郎取締役副社長に聞いた。(構成:日比野恭三)
並木 今回はコンサルタントたちの人材活用をメインに伺いたいのですが、その前に、そもそもヤフーはコンサルティング・ファームと仕事をする機会は多いのでしょうか。
川邊 正直なところ、めったに使いませんね。私の知る限り、戦略の分野では1回しかありません。企業買収を検討した時に、買収額が妥当かどうかという価値算定と、買収した後の戦略立案を外資系の大手コンサルティング・ファームにお願いしました。
並木 満足度はどうでしたか?
川邊 結果的には買収しないという判断に至ったんですが、極めて限られた時間の中で膨大な調査をよくこなしてくれました。やはり数千億円規模の価値算定になると、どこまで緻密に考えられるかが非常に重要になります。我々の気づかないところを指摘してくれたり、海外の事例を調べてくれたり、素晴らしい働きだったと思います。
並木 では今後、コンサルに戦略を頼んでみようというお考えは?
川邊 残念ながら、そうはならないでしょうね。うちの場合は、戦略がないことが重要なんですよ。
並木 ないことが重要……とは?
川邊 なぜなら、企業を取り巻く状況は変わるじゃないですか。コンサルティング・ファームが立派な戦略を作ってくれたとしても、ネット業界では1年後にはすっかり環境が変わってしまうことがよくあります。今後、コンサルティングをお願いすることがあるとすれば、具体的なトピックがあって、その点に関して力を貸してほしい時に限られてくるのではないでしょうか。
並木 まさに今回の買収案件のように。
川邊 そうです。まず自分たちがやりたいことは何か、その中で自分たちではできないことは何かをはっきりとさせておくこと。それから、コンサルティング・ファームの機能をよく理解しておくこと。そういうポイントを発注者がきちんと押さえておかなければ、依頼してもあまり機能しない可能性が高い。難しい問題が出てきた時に、「とりあえずマッキンゼーやボスコンに相談してみましょう、そうすれば何かいい解決策が出てくるはず」という発注者がいるとすれば、それは単に担当者が楽をしようとしているだけだと思います。もちろんコンサルティング・ファームはそれなりの提案をしてくれるでしょうけど、その会社がもつ文脈や企業文化を反映したものにはなりえない。
例えば私たちは、2012年に経営陣を一新して、スマートデバイスへのシフトを図ろうと改革を進めてきています。このとき「爆速経営」を理念に掲げ、「課題解決」「爆速」「フォーカス」「ワイルド」という4項目からなるヤフーバリューという行動指針を策定しましたが、これはコンサルティング・ファームに頼んでも絶対に出てこないと思うんです。やはり企業戦略には、企業がもつ暗黙知であったり、何に燃えるのかというエモーショナルな部分が反映されるべきであって、誰かに作ってもらうものではない。
私たちの場合は、コンサル出身者をインハウス化していますから壁打ちの相手は社内にいますし、コンサルティング・ファームを使うにしてもうまくバリューを引き出せる体制になっています。