納得して嫌われるアイドル活動を
【岸見一郎×トマト】

[5人目の嫌われ野菜]
トマト
20歳のアイドル。ハイテンションの可愛さを全開にしたキャラクター。しかし、素顔はその真逆でとにかく暗い。BARにマスターしかいないときのみ本来の自分の姿を見せる。厳しい芸能界での争い、迫り来るアイドルの世代交代に怯えながらも必死に頑張っている。代表曲は恋する女の子のフレッシュな気持ちを表現した『もぎたて☆カプレーゼ』と、禁断の恋の終わりを迎えた切なさを歌う『パスタソースでもいいから』などがある。
Twitterアカウント=@Tomato_BKY

トマト 宜しくお願いいたします。あ、普段と話し方全然違うので戸惑っていらっしゃるかもしれませんがお気になさらないでください。

岸見 はい。宜しくお願いします。

トマト 私、野菜アイドルというのをやっていまして、16歳で芸能界デビューしたんですけど、当時は地味で全然売れなくて。マネージャーから「キャラを作りなさい」と言われたんです。自分なりに考えた結果、フリフリの服を着て「いえーい☆」とか「きゃはっ☆」とか言い始めたら、なぜか大人気になりまして。……もうこのキャラやめられなくなったんです。ただ、喜んでくれるお客さんがいる一方で、「なんだ可愛い子ぶって」「ウザい」という意見が私のTwitterやブログに多く届くようになりました。

岸見 本来の自分を出したらどうなるんですか?

トマト 私の本来の姿はこの通りでして、とにかく根暗です。正直アイドルをやるような性格ではないんです。人前に出るのも苦手でしたし。こんな自分のこと好きにはなれませんが、でもやっぱり普段通りが気持ち的には楽ではあります。

岸見 普段はすごく無理をしているということ?

トマト 少し前までは相当無理していました。今となっては作られたキャラが心身に染み付いてしまって、逆に「いえーい☆」とか「いやーん☆」とか言っているほうが落ち着くんです……。

岸見 そのキャラをやめたら、もうこの業界にはいられない気がするの?

トマト そうですね。やっぱりアイドルはライバルが多いので際立った個性が重要です。次々と若くて可愛いアイドルが出てきますし。私は今20歳なんですけど、アイドル界で20歳ってかなり上の年齢なんです。このキャラをやめたら引退するしかないと思います。

岸見 そうなることがわかっているから、無理をしている本来の自分ではないキャラを演じることで承認されたいと思っているのではないかな。本来の自分では認めてもらえない、承認されないと。

トマト 本来の私のままでは、好きになってくれるファンはできなかったと思います。無理をしている一方で、このキャラを演じることで好いてくれる人が増えていくのが嬉しくて、やめられなくなっている部分はありますね。

岸見 何が問題かというと、本来の自分を認めて受け入れられていないことです。本来の自分もOKだし、そのうえでアイドル用のキャラもOKだと両立できれば、もうすこし楽になるかもしれない。ちなみに本来のあなたの姿を知っている人はいるんですか?

トマト 家族以外ですと『BAR 嫌われ野菜』のマスターだけですね。マスターにはすぐに見抜かれました。やっぱり接客業をやっている方だからですかね。

岸見 あなたのファンの中には、マスターと同じように見抜いている人がいるかも。そういう人が本当のファンなのかもしれないよ。

トマト この前届いたファンレターに、「無茶しないで。いつものキミでいいから」って書いてあってびっくりしました。長年ファンクラブの会員でいてくださる方なんです。

岸見 そういうファンのことをもっと考えていいのでは。僕思うんですけどね、根暗ってそんなに悪いことじゃないですよ。たしかに根暗って面と向かって言われたら嫌ですけど。「暗い」とか「根暗」というのはネガティブな意味合いだけじゃなくて、自分がやったことが他の人にどんな影響を与えているかをいつも意識している人のことも指すのだと思います。その逆で、純粋に「根明」な人は他人の気持ちなんかこれっぽっちも考えず、場合によっては人を傷つけることを平気で言えるような人かもしれない。あなたは決してそうではなく、本来の自分があるから「こんなことを言ったら相手はこう受け取る」ときちんと考えて行動ができる人なんじゃないかな。僕はそういう人を「暗い」「根暗」という言葉で表現するのは間違っていると思う。もっとふさわしい他の言い方があるんだけど、わかりますか?

トマト なんでしょう……。