岸見 自立ですよ、自立。

ナス 子ども自身が自立するということですか?

岸見 そう。だから、子どもが「こんな家にはいられない」と言って家を飛び出して行けば、それは育児に成功したということ。

ナス それを自立したというのですか?

岸見 いつまでも家にいる子どもって大変でしょう?

ナス (セロリくんみたいな子どもか……たしかに大変だ)

岸見 そういう意味では、ナスさんは育児にかなり成功していると思いますよ。娘は親を嫌うものなんです。ドラマの世界じゃないですから、「お父さんありがとう」なんて言わないし、嫌われるものなんですよ。「洗濯機で同じ下着を洗わないで」と言われ、先にお風呂に入ったらお湯を抜かれる。そんなのはよく聞く話で、あなただけ特別ではない。娘さんが親を嫌うようになったのは非常に健全な成長を遂げている証拠ですし、いずれ親には頼らないで外に出ていくとしたら、それは親として大事な仕事をやり遂げたということです。

ナス 目から鱗です。あの日々の罵詈雑言はもしかしたら自立への一歩だったのか……。

岸見 極論を言うと、子どもと仲良くなる必要はないんです。奥様とあなたは仲が良いですか?

ナス ええ。ワイフはこの世で最も愛しています。ワイフも私をそう思ってくれているはずです。

岸見 じゃあ良いじゃない。であれば別に子どものことを考える必要はありません。一緒にいる間は、子どもには親のありがたみはわからないのです。家を出てから「お父さん良いところあったな」とようやく気付くのです。

ナス たしかに私自身もそうですね。今の歳になってようやく親の偉大さを感じています。それを中学生の娘に求めても仕方ないですよね。嫌われているくらいがちょうど良いのかもしれません。

岸見 無関心でいられるよりは、せめて嫌われているほうがいい。娘さんは、面と向かって「嫌い」と言うわけですよね。一般的な女子中高生はコソコソと嫌うわけです。

ナス よくワイドショーで見ますね。あれは流石に耐えられない……。

岸見 だからはっきり言ってくれる娘さんっていいじゃないですか。その辺にいる他人のおじさんには言いません。この人になら言っても大丈夫だと思っているから、「お父さん嫌い」と言うのです。そういう風に娘さんを見直してほしい。若い人たちは「嫌い」「キモい」を、親が傷つく言葉だとは思っていないのでしょう。それくらいのことを言っても大丈夫だという信頼感が親に対してあるのです。

ナス 信頼感があるからこそ、正面からぶつかってきてくれるんですね。

岸見 家の中では好きなことを言えるような環境をあなたがつくっているのだと自信を持ってほしい。もしかしたら娘さんは外ですごく遠慮した生き方をしているかもしれない。けれど、あなたに対しては遠慮せずにいられる。これは娘さんに大きな貢献をしていることだと思いますよ。

ナス 私は良い家庭をつくれているんですかね……。

岸見 そう。上出来です。

ナス ふほっ! 勇気が湧いてきました。先生、ありがとうございました。