職場の同僚との昼食中の会話――。

「U君の娘さんは、大学3年生だってね。就活は始めているの?」

同僚「やっていますよ。先日は、エントリーシートをチェックしてくれと頼まれましてね」

「うちも同じだよ(笑)」

同僚「20年以上も働いてきたので、少しは役に立ちました(笑)」

「今から考えると、就活はいい機会だったね」

同僚「正門から堂々と入って、会社の話を聞ける機会なんて、一生のうちにもうないんですから。しかも自分のことを真剣に聞いてくれますしね」

「たしかにそうだね」

同僚「娘が受ける洋酒のS社は、僕が財務の時に担当していましてね。思い入れがある会社なのでドキドキしていますよ」

「うちの娘は、本社にもエントリーシートを出したよ」

同僚「えっ、本当ですか? シートは楠木さんが書いたでしょう(笑)。昔は人事で、裏の裏まで知っていたんだから」

「書きはしないよ。でも読んだけどね(笑)。会社説明会の雰囲気は良かったらしいよ」

同僚「入社すれば面白いですね」

「2親等の親族は入れないと思うよ。それより採用パンフを見ると、若い人ばかりで、顔を知っている社員は独りもいなかったなぁ」

同僚「世代が違いますからね。それにサラリーマンは、どうしても上を見るので先輩は知っていても、後輩になるともう分からないですね」

「でも若い人に語りかけたり、何かを伝える機会がないのも淋しいね」

同僚「本当はそういうものがないと、中年になってイキイキ働くことはできないですよ。最近、管理職になりたがらない人が増えているのも、それと関係がありますよ」

「僕らの時は、管理職以外に、成長感を得る手立てはなかったけどね。彼らは、上を目指さないで、後輩や次の世代に何が残せるかを考えるのかな。NHKテレビの『ちりとてちん』の落語の師匠を見ていると特にそれを感じるよ」