【2】
本当の課題は、相手の話の「ウラ」にある

 大学を出てからそのままデザイン事務所ネンド(nendo)を始めて、約13年がたちました。

 デザイン事務所がどのように運営されているかはあまり一般的に知られていませんが、大掛かりな設備投資や好立地の店舗などを構える必要がなく、基本的には依頼されたデザインをして、報酬をいただくという、なんとも単純な商売です。

 ところが、デザイン事務所の経営にはジレンマが常につきまといます。「デザインをがんばればがんばるほど儲からない」のです。

 斬新なアイデアにチャレンジしようとすればするほど手間がかかります。既存の技術や素材の範疇では実現が難しく、膨大な時間をかけてリサーチや検証を重ねないといけません。逆に、目立つところをサラリと「お化粧」するだけなら、汗1つかかずにデザインフィーをいただけてしまいます。

 ただし、いくら「お化粧上手」になったところで、それは所詮、小手先の技術。たいしたスキルを要しないために他の事務所との差別化ができず、これはこれで「ジリ貧」なわけです。

 作業量やアイデアの善し悪しに応じた報酬体系ならこういった問題は起きないのでしょうが、デザインフィーはそもそも、依頼主が手掛けている商品の予算次第で決まってしまいます。

 プロダクトなら「商品開発費」、インテリアだと「店舗開発費」に含まれることが多く、売り上げから償却しないといけない。「内装代はデザインフィー込みで○○万円」と、要は経理上は壁紙と同じ扱いなのです。

 普通に考えると、低予算なときこそ創意工夫が必要なため、デザインに投資しないといけない気もしますが、そうはいかないようです。

 エステーの「自動でシュパッと消臭プラグ」は、既存の電池式の消臭芳香剤をベースに、外装だけをキレイに整えてほしい、という依頼でした。

これに対して、内部の構成要素の簡略化や配置換えを提案し、約25%のコンパクト化に成功しました。以前よりも安く製造できるデザインで、結果的にリニューアル後の売り上げも半年で前年比2倍に伸びました。

 このように、実は必ずしも「デザイン=コスト増」ではないのです。依頼主のおサイフが小さいから、デザイナーも「割に合う程度にしかがんばらない」では誰もハッピーになりません。

 きっと、おサイフ自体を広げられるような「がんばり方」をデザインすることも、これからのデザイナーには必要なのかもしれません。

【3】
「制約」を少しずつ落として選択肢を増やす

 ものづくりには制約がつきもの。しかしその制約をすべて額面通りに受け取っていては、新しい解決策が出ないことも多いもの。こうしたとき、制約を少しずつ崩してみると、アイデアにバリエーションが出ます。

 たとえば、制約が10個あったら、順番に1個ずつ落として、まず9通りにします。1番を落としてみて、2から10を大事にして考えてみる。次は2番を落としてみて、1と3から10は大事にしてシミュレートしてみる。そうやって考えていって、アイデアをどんどん出していくんです。それが一巡したら、今度は1と2の2つを落としてみて、3から10で考えてみたり、思い切って1、2、3を外してみたり。そのようにして多様なルールのもとで取りうる選択肢をたくさん出していきます。

 結果、1個落とすだけでこんなにいけるのなら、この条件を落としても成り立つんじゃないか、など当初は思ってもいなかった解決策が生まれます。