そもそも、調査・指導に関わる多大な権限を持つケースワーカーは、生活保護利用者と「対等」ではありえない。新人ケースワーカーたちの日常を描き出し、話題となっている柏木ハルコ氏のコミック作品「健康で文化的な最低限度の生活」(1巻2巻)を読めば、生活保護利用者たちと信頼関係・協力関係を築いて維持することが、ケースワーカーにとってどれほど困難で数多くの矛盾を含んだ課題なのか、一端なりとも理解することができる。このモデル事業は、辛うじて成り立っている信頼関係・協力関係まで破壊するかもしれない。

富士通総研の「行政におけるプリペイドカードの多様な活用に向けた情報交流の場となる『プリペイドカード行政活用フォーラム』設立のお知らせ」より。既存加盟店の圧倒的な多さは、行政での活用に際してどのようなメリットでありうるのだろうか?

 もちろん「プライバシーが漏れる」に対する懸念もある。理由なくプライバシーを詮索されるのは、誰にとっても受け入れがたいことだろう。今回のモデル事業の対象は、大阪市の生活保護利用者のみだが、いずれは公共から何らかの現金給付を受ける可能性のある人々全体に拡大する可能性がある。少なくとも、今回のモデル事業に参加した4社(三井住友カード(株)・(株)富士通総研・ビザ・ワールドワイド・ジャパン(株)・(株)NTTデータ)は、そのつもりのようだ(参考:富士通総研「行政におけるプリペイドカードの多様な活用に向けた情報交流の場となる『プリペイドカード行政活用フォーラム設立』のお知らせ」)。老齢になれば、金額はともあれ老齢年金を受給する貴方にも、関わってくる可能性のある問題だ。

唯一の大手スーパーが「カード不可」
大阪市・釜ヶ崎の買い物事情

釜ヶ崎の路上で営業しているラーメン店。一杯100円
Photo by Y.M.

 生活保護利用者が多い地域では、「昭和」、ともすれば「戦前」の名残を目にする事が多い。そのような地域は経済発展から取り残されていることが多いからだ。大阪市の中で、特に生活保護利用者が多いことで知られる西成区も例外ではない。

 西成区には、「釜ヶ崎」という通称で知られる地域がある。最寄り駅は、通天閣と同じく、大阪環状線の新今宮である。駅の周辺には、そこに釜ヶ崎があることを意識させられるようなものは何もない。あえて釜ヶ崎らしさの見られるものを挙げれば、とび職など建設労働者向けの衣類専門店が駅前にあること程度だろう。よく見れば、周辺に立ち並ぶビジネスホテル風の建物の多くは「ドヤ」であり、入り口に「生活保護の相談はお気軽に」といった張り紙があったりする。また、定住所を持たない人々や路上生活者を対象にした荷物預かりサービスやコインロッカーも目につく。カードの利用が可能そうな店舗は、コンビニ程度しか見当たらない。

大阪・釜ヶ崎の飲料自販機。価格は50円~80円程度
Photo by Y.M.

 釜ヶ崎地域を囲むように、いくつかの大きな商店街がある。それらの商店街の中にも、カード使用が可能な小売店はほとんどない。この地域には、安売りで知られるスーパーチェーンの店舗があるけれども、このスーパーチェーンでもカードは使用できない。釜ヶ崎地域の住民たちに、

「カード導入による若干の利便性を、若干の価格上昇と引き換えに受け入れられますか?」

 と尋ねれば、おそらく全員が「イヤだ」と言うだろう。

 なお、西成区の生活保護利用者の多さは、住民の高齢化と関係している。2012年、西成区の生活保護利用者のうち58.2%が、高齢世帯だった。傷病者(13.5%)・障害者(8.8%)を含めると、80.5%が「働けないので、働かない」という人々である。