パトリック・ジョンソンが2003年に10秒を切った時は、「最速の非ネグロイド」と称された。ルメートルが2011年に9秒台を出した時はコーカソイド初の10秒の壁突破者といわれた。桐生が10秒を切れば、最速のモンゴロイドと呼ばれるかもしれない。今では人類を人種で分類することに否定的な意見もあるが、競技を超え、ついそうした部分にも触れたくなるような偉業が見られるかもしれないのだ。

 なお、短距離においても長距離においても強さを発揮するアフリカ系選手の身体特性はかなり研究されている。たとえば骨盤の位置。骨盤が前傾しており、腰を支点に脚が動くため腰の位置が高くストライドを伸ばして走れるという。加えて上半身と下半身をつなぐインナーマッスル・大腰筋が発達しており、パワーを有効に発揮できるといったことだ。桐生はトレーニングによって、それに近いフォームを身に着けつつあるという。

 また、桐生は帰国後のインタビューで、

「タイムよりもベイリーに勝ったことが自信になった」と語っている。外国のトップ選手に先着することは意識の壁を突き破る効果があったのだろう。夢と思われた10秒切りも現実味を帯びてきたわけだ。

 とはいえ短距離種目はメンタルの影響も受けやすい。意識過剰になるとスタートが決まらなかったり、体に余計な力が入って思うようなフォームで走れなくなる。桐生が予定している次のレースは今月18・19日に行われる織田記念国際陸上(広島エディオンスタジアム)。ファンもメディアも桐生の10秒切りを期待し大騒ぎになりそうだが、果たしてそのプレッシャーを乗り越え本来の走りをすることができるだろうか。注目したい。