米バイデン副大統領は一時間に渡り、安部首相に靖国参拝を自粛するよう説得を続けた。アメリカが首相の靖国参拝を引き止める本当の理由とは?『撤退するアメリカと「無秩序」の世紀』の著者でもある、ピューリッツァー賞受賞・WSJコラムニストが分析する。
安倍首相の靖国参拝を
アメリカはなぜ恐れたのか
アメリカがドイツや日本、韓国といった国に核の傘を与えているのは、これらの国が自ら核を獲得する必要性を感じないようにするためだ。また、それだからアメリカは最近まで、同時に二つの大戦争を戦えるだけの軍事力を維持してきた。
それはアメリカ軍が中東に展開していても、日本などの国の安全保障が脅かされることはないと安心させるためだった。こうした責任を担うコストと、その履行に伴うリスクを引き受けているからこそ、アメリカは同盟国の戦略的選択肢に甚大な影響力を持つ。
その影響力は一九九一年の湾岸戦争時に効果を発揮した。このときイラクのサダム・フセインは、イスラエルにスカッドミサイルを撃ち込んだが、ジョージ・W・H・ブッシュ大統領はイスラエルを説得して、イラクに対する報復攻撃を思いとどまらせた。
そのためにアメリカの戦闘機の展開計画は変更を余儀なくされ、特殊部隊はイラクの移動式ミサイル発射装置を破壊しなければならなかった。つまりアメリカ兵の命を危険にさらす必要があった。しかしそのおかげで、アメリカはイスラエルを防衛する明確な意志があることをイスラエルのイツハク・シャミル首相に納得させ、イスラエルとの同盟関係を維持するという、より大きな国益を守ることができた。
オバマもいま、イスラエルにイラン攻撃を思いとどまるよう説得しているが、イスラエルの指導者たちはその前提となる約束が軽視されているように感じている。そのためイスラエルは単独で行動を起こす誘惑に駆られている。
波紋が及んでいるのは中東だけではない。
二〇一三年一二月、ジョー・バイデン副大統領は日本の安倍晋三首相と一時間ほど電話で話し、第二次世界大戦の戦犯を含む二五〇万人の戦死者をまつる靖国神社への参拝を思いとどまるよう説得を試みたが、失敗に終わった。