核の傘がゆらいだとき
日本は軍国化する?

 安倍がバイデンの要請を断固拒否したのは、彼自身の愛国主義的な考え方のせいもあるだろう。しかしその前月に中国が突然日本の尖閣諸島を含む防空識別圏の設定を発表したとき、バイデンがはっきり中国を非難しなかったせいでもある。

 「水面下では、いつかアメリカが日本を防衛する能力または意欲を失うのではないかという不安が大きくなっている」と、ロイター通信は報じた。「このため安倍は、海外における軍事行動を制限した憲法解釈を改め、空軍力と海軍力を強化する意向を一段と強めた」。

 拓殖大学の川上高司教授(国際政治学)は、「いまは日米関係で最も危険な時期の一つだ」と警鐘を鳴らした。「日本は孤立感を抱いており、自立しなければと考える人が増えている。アメリカに対しても同じだ」と語った。

 フリーランス外交が拡大したら、ほかにはどんなことが起きるだろう。より多くの国が核開発に乗り出そうとするのはほぼ確実だ。中東に核保有国が三〜四ヵ国あったら、つまりイスラエルとパキスタンだけでなく、イラン、サウジアラビア、トルコ、場合によってはエジプト、さらにはアルジェリアまでもが核を持ったら、世界はより安全な場所になるのか。これらの国は政情や同盟関係(暗黙の同盟関係もある)がめまぐるしく変わるなか、互いにいがみあっている。

 イランにウラン濃縮活動が許されるなら、ほかの国も核開発の選択肢を残しておいてはなぜいけないのか。二〇一三年、日本とトルコは原子力協定に調印した。朝日新聞(英語版)によると、この協定には、「トルコが将来ウラン濃縮と、核兵器の原料にもなるプルトニウムを取り出すことを可能にする条項」が含まれている。

 サウジラビアは向こう二〇年間に原子炉一六基の建設を計画しており、二〇一四年にはヨルダンとの原子力協定に調印した。韓国はかねてから、独自のウラン濃縮施設を確保したいとアメリカに訴えてきた。二〇一三年の世論調査では、回答者の三分の二が北朝鮮に対抗して核兵器を開発することを支持した。

 日本さえも核開発の可能性を残している。ウォールストリート・ジャーナル紙によると、日本は二〇一四年一〇月に、建設費二兆一九〇〇億円をかけた六ヵ所再処理工場を完成させる計画(※編集部注 二〇一六年三月に延期)だが、ここは「兵器級プルトニウムを年間九トン、つまり核弾頭二〇〇〇発分を生産する能力がある」。*1

 ただし日本はまだ核兵器をつくりたいとは表明しておらず、二〇一四年三月には、核拡散防止の原則を尊重している証として、使用済み核燃料の一部を手放すことに合意した。それでも日本は、いざとなったら核兵器をつくれる権利は確保しておきたいと考えている。

 フリーランス外交が世界にはびこったら、アメリカはどう対応するのか。過去の例を見る限り、アメリカはうんざりして背を向けるだろう。「ウッドロー・ウィルソンからジョージ・ブッシュまで、アメリカの歴代大統領は、何も見返りを求めないことをアメリカのリーダーシップの特徴と自負してきた」と、キッシンジャーは指摘する。

 外交が高潔な道徳的規範の追求をやめて、単なる影響力の拡大競争になると、アメリカは嫌気がさして世界に背を向けるのが常だ。アメリカは元来、理想主義的である半面、幻滅しやすい。それは第一次世界大戦後、そして現在のアメリカの外交政策の圧倒的特色になっている。

*1 http://www.wsj.com/news/articles/SB10001424127887324582004578456943867189804