安倍首相訪米前の現地で
圧倒的に高い歴史認識への関心
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現在、日本の安倍晋三首相が訪米する前夜のワシントンDCでこの原稿を執筆している。
安倍首相は、4月28日にバラク・オバマ大統領との日米首脳会談に、29日には日本の首相として初めて米議会上下両院合同会議での演説に臨む。現地の政策関係者や知識人だけでなく、各国大使館・外交官らの関心も高い。何よりだ。
安倍首相は羽田空港から飛び立つ前、記者団たちに対して、米国のリバランス政策や日本の積極的平和主義を含め、“日米がどういう世界をつくっていくかというビジョンを示す”という意気込みを語ったが、私がワシントンDCで米国や諸外国の政策関係者や知識人らと話をする限りにおいては、「日米間でTPPをめぐる協議がどこまで進んでいて、どれだけの合意が達成されるのか」(中国の経済記者)を除けば、安倍首相本人の歴史認識への関心が圧倒的に高いようだ。
ホワイトハウスも、安倍首相の歴史認識を気にしているように見える。24日、ローズ大統領副補佐官が「米国は安倍首相に、過去の日本の談話と合致する形で歴史問題について建設的に取り組み、地域でよい関係を育んで緊張を和らげるよう働きかける」と述べている。
米国が真に気にしているのが、中国という存在であることは疑いない。安倍首相の歴史認識をめぐる言動が引き金となって、日中間に亀裂が入ることを懸念しているのだ。また、共に同盟国である日韓が歴史問題で揉めている状態は、米国のリバランシング政策にとっても不利に作用する。「不透明に台頭する中国に向き合うためのパワーが分散してしまうからだ」(ホワイトハウス外交担当官)。
政策立案者・担当官だけでなく、ワシントンDCのシンクタンクや大学で東アジア問題を研究する関係者たちの多くが“安保が歴史にハイジャックされる”(同担当官)リスクを懸念している。日中・日韓のあいだで歴史問題がしばしば表面化するようでは、米国のリバランシング政策における日本、及び日米同盟をどう位置づけるかという戦略的問題を再考・調整していかざるを得ないという発想である。
背景には、オバマ政権による“中国と上手に付き合っていかなければならない”という考え方が横たわっているように思える。米国にとっては、同盟国である日本が中国と上手く(“仲良く”ではなく、“上手く”)付き合えない状況はフラストレーションであるようだ。ワシントンDCでは、そういう空気を比較的強く感じる。
その意味で、訪米直前にインドネシアを訪問した安倍首相が中国の習近平国家主席と会談し、昨年11月の会談よりも和やかな雰囲気で未来志向の話ができたことは米国の戦略的利益に適うし、関係者の多くが安倍首相の外交努力を評価していた。
もちろん、習主席は同会談において歴史認識で安倍首相を牽制することも忘れなかった。中国側は引き続き、韓国と米国を巻き込みながら、歴史問題で日本を牽制する外交を北京、ソウル、東京、そしてワシントンなどで展開していくに違いない。