インターネット化とは、市場化すること

ちきりん 自分が提供している小麦の価値はなんなのか、考えるってことですよね。

田端 ただお腹がふくれればいいという人もいるかもしれないし、子どものために安全なオーガニックのパンを作る材料がほしいと思っている人もいるかもしれない。

ちきりん パン向きの小麦とケーキ向きの小麦だって、求められる質が違うかもしれない。

田端 そうそう。それぞれの人の動機を見極めて、自分が有利になれる市場に出るべきなんです。先ほどの「るるぶ」だけの時代から「楽天トラベル」の時代というのもそうですけど、インターネット化されるというのは、市場化されるってこととほぼイコールですよね。この本は、インターネットについて書いた本ではないけれど、インターネットの影響による変化がよくわかるようになっています。

ちきりん ネットって、市場レベルがすごく高い。ネットがない時代は、テレビや雑誌が取り上げた「おいしいケーキ屋さん」しか人気になれなかった。でも、いまは食べログ1位とか、SNSでバズった「話題のケーキ屋さん」にも客が殺到する。テレビが取材先として選んでくれなくても、市場で評価されることで生き残れる時代です。

田端 たしかにそうですね。民主的な時代になりました。マーケットって民主的なものでもありえるんです。

ちきりん そういえば私も、田端さんと本田哲也さん共著の『広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。』も、「わかるわかる!」とうなずきながら読みました。

田端 ありがとうございます(笑)。

ちきりん 特に私の本に書いた「市場の選択」とつながるのが、「伝えたい規模によって、最適なメディアは異なる」という話です。例えば「ちきりん」の場合、ターゲットにしてるのは10万人からせいぜい30万人の読者です。最初から1千万人、1億人に伝えようとは思っていないんですね。だからメディアにでる時も、こんなお面を使ってる。数十万人の読者獲得が目的だと、経歴や外見を隠すことが興味を引いて、それ自体が価値になるからです。でも1千万人規模の市場を狙いたいなら、顔を隠すなんてありえない。勝負する市場が違えば、勝つ方法も違ってくるってことです。

田端 なるほど。

ちきりん 「市場で認められる」というレベルにもいろいろあって、数万人に評価されて、年収で600〜800万円くらい稼げればいいのであれば、すごい切り札がなくてもやっていけると思うんですよ。「ニッチな分野でそこそこ知られている人」になるのは、そんなに難しくありません。必要なのはマーケット感覚だけです。一方、1千万人に支持されて何十億円も稼ぎたいなら、マーケット感覚に加え、オペレーション能力など、組織力も併せて必要になります。自分が狙ってる市場はどんな市場なのか。そういう視点を持つことも大事ですね。それ自体がマーケット感覚なんですけど。