新卒採用の面接で「3年後に自分がほしい給料」を聞くわけ

田端 そのマーケット感覚って、「そもそも、自分は何を求めてそのマーケットに参加してようとしているのか」を自覚することも含まれますよね。「自分が何を欲しいか」、そしてそれと引き換えに「自分は何を差し出してもいいか」をわかっている人同士が、お互いの持っている価値を交換するためにある仕組みがマーケットですから。僕はよく、新卒採用の面接をしているときに、「いくらでもいいから3年後に自分がほしい給料を言ってみて」と聞くんです。額は、500万円でも、3千万円でも、1億円でもいい。ただ、それがなぜ欲しいか、なぜその額なのか、なぜその金額を自分がもらうに値するのか、を説明してほしいんです。

ちきりん それぞれの人のお金との向き合い方が表れそう。

田端 そうなんです。みんなほとんどちゃんと答えられないですね。でも、そこを自覚していないと、将来困ると思うんですよ。株式市場で一番カモられるのって、どこまでも儲かればいいと思って、際限なくダブルアップする人。で、最後にやられてすってんてんで去っていくことになる(笑)。カジノもそうですけど、ここまで勝ったらやめると決めておいて、スパっと勝ち逃げできる人がけっきょく一番儲けますよね。それはその人が「自分が儲けたい金額」「必要な金額」というのを事前にちゃんと分かっていたからできることなんです。

ちきりん 確かに「欲しいものだけ取って終わりにする」というのが一番賢い。

田端 そしてメディアでいうと、それはリーチの規模や認知度なんです。例えば、自分は会計が専門だから、ベンチャー企業の会計実務を解説するメルマガを、経理セクションの人向けに発行して、1万人から月1000円課金できればいいや、と思ったら、それ以上の層に知られるための広告は打たなくていい。

ちきりん ゴールを決めていないとダメなのって、起業家もそうですよね。仲間とやりたいことがやれればいいのか、売上げ100億円の会社を目指すのか、3千億円の会社を目指すのか、Appleみたいな世界企業を目指すのか。それによってやるべきことが全然違う。

田端 わかるなあ。時価総額を大きくすることはあくまで手段であるべき。企業にとってのマーケットである資本市場も、事業展開をしていくうえでの手段・ツールであるべきなのに、主客転倒して、マーケットに評価され株価を上げること自体が目的になっちゃってる会社って、ありますよね。

ちきりん ええ。それに目先のお金の価値を重視するあまり、プライスレスな価値に目がいかない、というケースもあります。先日、定員200人の名古屋の会場で講演をしたら、チケットが1日半で売り切れたんです。すると、「500人規模の会場にしていたら、入場料収入が倍になったのにもったいないのでは?」と言う人がいたんです。でも、それは違うよねと(笑)。だって私からすれば、1週間かけて500枚のチケットを売って少々収入が増えるより、1日半でチケットが売り切れ、「ちきりんの講演チケットはプラチナチケットだ!」という評判が得られるほうがよっぽど価値が高い。

田端 しかもそれって、長期的に見れば金銭的にもプラスになりますよね。

ちきりん そうなんです。「前回はチケットが手に入らなかったけど、次こそは!」と待ち望んでる人がたくさんいる状態って、広告を打って意図的につくろうと思ってもつくれないですから。自分の提供価値は何か、ということに加え、どうすれば自分の価値が上がるのか、そういう視点で考えるのもマーケット感覚だと思います。

(次回へ続く)

※この対談は全5回の連載です。 【第1回】 【第2回】 【第3回】 【第4回】 【第5回】