脱「病院死」の流れにも逆行

 次いで、この提言の第2の問題は、病院と施設に偏った発想が土台にあることだ。

 ベッド不足の根拠となった将来需要は、いずれも、現在までの病院と施設の増加率をそのまま2025年まで延長させて想定したものだ。「量」の考えだけで、「質」への考慮がない。

 医療も介護も今や大転換期にあるはずだ。一昨年8月の「社会保障制度改革国民会議」の報告書では、医療への抜本的な発想転換を要請している。「治す医療」から「治し支える医療」へ、「病院完結型」から「地域完結型」へ、「延命、救命」から「QOL(生活の質)の維持」へと画期的な標語を並べて意識改革を促した。

 介護では、15年前の介護保険制度の発足以来、「在宅重視」が基本的考え方である。病院や大規模施設での長期にわたる「療養」は、とても日常生活の延長とは言えない。できるだけ、自宅や同じ地域内での暮らしが求められている。

 そのために、厚労省は在宅サービスの柱として小規模多機能型居宅介護や定期巡回随時対応型訪問介護看護(24時間訪問)の普及に力を入れ出した。

 併せて、医療からも在宅療養支援診療所と訪問看護ステーションの普及を促進しようと、昨年と今年の医療報酬、介護報酬ではかなりの増額を実現させたばかり。

 厚労省だけでなく、国交省はこれら4サービスをサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)に併設する「拠点型サ高住」を地域包括ケアの主役に位置付ける方針を4月に表明した。

 サ高住は、株式会社を含めてあらゆる民間事業者が参入できる。その半数近くでは、すでに訪問介護やデイサービスが併設されている。よりケア充実度が高い小規模多機能型や24時間訪問を併設すれば、看取りが視野に入り、「終の住処」へと進化する。

 介護保険で最も報酬の多い療養型病床を廃止し、サ高住に転換してこうした在宅サービスを活用するのが、大きな流れである。まして、急性期病院での長期療養は早急に終止符を打たねばならない。

 利用する高齢者にとっては、トイレ付きで18m2以上の個室が保障されるサ高住は自宅に最も近い環境のケア付き住宅である。経済的にも入院生活よりもはるかに負担は軽い。

 提言は、現状の病院と施設をそのまま10年後にも同じように必要とみるスタンスを脱していない。在宅医療と在宅介護を主役に育てていく発想が欠落している。

 高齢者やその家族が「病院死」に疑問を抱く動きが広がりつつある。延命治療一辺倒の病院の考えに不信感も高まってきた。国民の意識が大きく変わろうとしている。

 病院死が80%近い現状を「異常」とみる人が増えつつある。欧州各国ではほぼ50%前後と低い。自宅や集合住宅での看取りがさらに増えつつある。

 足元の意識転換がじわじわと進んでいるにも関わらず、一足飛びに地方移住を解決策とするのは、高齢者自身からも相手にされないだろう。