健太が驚いたのは、ホワイトボードの傍に、部品の壊れやすい箇所や不良品の例が写真付きでたくさん張り出されていたことだ。チョウに聞いてみると、各作業員が携帯電話で写真を撮ってラインリーダーに送り、その中から重要なものを抽出して張り出しているという。まだ生産品質の取り組みを始めて間もないが、必要な指示が与えられ、その進捗状況が小まめに管理されることによって、作業員の意識は確実に変わり始めているようだった。

 健太は自分が必要だと思っていたKPIを一通り確認することができた。また、モデルラインの改善活動が軌道に乗っていることを確認し、ひとまず安心した。

〈よし、次はウェイさんにサプライヤーに対する改善要求の実行状況を確認しよう〉

 階段を2階に上がったところで、健太はスティーブと鉢合わせした。

「あっ、おはようございます!」

「健太、相変わらず朝が早いね。『3分間チェック』を見てきたのかい?」

「はい、順調に進んでいるようです。作業員の品質に対する意識も高まってきたようです」

「それは良かった」

「ところで、サプライヤーへの改善要求がどうなっているかご存じですか。もし良かったら、一緒にウェイさんのところに行って確認したいのですが」

「いいよ、今から行こうか」

 2人はスティーブの部屋とは反対の方向に歩いていき、ウェイのオフィスを訪ねた。

「ウェイさん、ちょっといいですか」

「スティーブ、おはよう。健太も一緒だな」

「サプライヤーへの品質改善要求はどんな感じですか」

「あぁ、その件なら先週まずチューブの業者を呼びつけて、うちに納入している部品の品質を改善するようにきつく言っておいたよ。今週の水曜日にはプレートの業者を呼んで同様にやる予定だ。他の部品についても主要なサプライヤーには改めて品質強化を厳しく言っておいた。もう大丈夫だと思うが」

「部品のどこをどう改善するか、はっきり伝えてくれましたか」健太が横から質問すると、ウェイは少し不機嫌そうな顔をして言った。

「君に心配してもらわなくても大丈夫だよ。彼らとは私が前職にいたときからの付き合いだ。私が言えば問題ないよ」

「でも、具体的に部品のどこが悪いかを伝えないと、改善しようがないと思います」健太はくどいとは思ったが、自分の腑に落ちないことは言わずにはいられないのだ。

 ウェイは気色ばんでスティーブのほうを向いた。

「スティーブ、最近来たばかりのやつにとやかく言われる覚えはない。こいつをどうにかしてくれ」