山田は、まず設計部門と生産部門の連携不足を挙げた。設計部門は生産部門の組立技術の不足を非難する一方で、生産部門は設計の不適切さにクレームをつけていた。

 また、必要となる本社からの技術支援も、ノンコア事業という位置づけからか本社は消極的で、かつ小城山上海の技術陣も自ら解決したいという意識が強く、この両者も連携が取れていなかった。

 さらに、静音性能については、工場内の静音ルームの活用が不可欠であるのに対し、顧客から返品された製品の静音検査を行うために、開発部門が使える時間はごく限られ、それが開発の遅れにつながっていた。

「このような状態が長期間続いたことによって、誰も新製品に対するオーナーシップを持たなくなり、状況が放置されてきたのです」

 山田の話を聞き終わると、麻理がすかさず質問した。

「お話を伺っていると、部署間の連携不足で必要なリソース(経営資源)が手当てできなかったことが原因のように聞こえますが……」

「その通りです。設計問題にしても、もっと早く本社の手助けを得られれば、どうにか生産にこぎ着けられるものに改良できたと思います。ただ、先日の定例報告会の様子からもおわかりの通り、経営陣の間でも建設的な議論にならないのです。責任の押しつけ合いになり、一緒に改善しようとする雰囲気がまるでない」

「スティーブはその問題をどうまとめようとしているのかね?」瀬戸が尋ねた。

「スティーブは頑張っていますが、この会社の中では新参者です。古くからいる経営幹部は、彼には面従腹背ですね」

「新製品の開発をこれ以上遅らせることはできないので、打てる手を打ちましょう」

 健太はそう言うと、立ち上がって〈実行すべき項目〉とホワイトボードに書き始めた。

〈実行すべき項目〉
(1)本社からコンプレッサーの設計に詳しい技術者を招聘して、設計問題の解決を手伝ってもらうこと
(2)新製品開発のために、静音ルームの使用時間を拡大して確保すること
(3)開発、生産、調達、営業部門から構成されるプロジェクトチームを組成し、共同で問題解決に当たる体制を作ること

 ここまで書くと健太は振り返り、「それぞれの担当者を決めましょう」と提案した。

 真っ先に手を挙げたのは瀬戸だった。

「1つ目は私がやろう。本社の技術部門に相談してみるよ」

「ありがとうございます。では、2つ目は私からスティーブを通して、副工場長のチョウさんにお願いしてみます」と健太は答えた。

「それでは、3つ目は私がやります」山田がやる気を見せた。

「山田さん、私もプロジェクトチームの立ち上げを手伝います。ミーティングのアレンジなど大変でしょうから」と麻理も参加することになった。

 健太は各人の名前を〈実行すべき項目〉の横に書き、「それでは、できることから始めましょう!」とミーティングを締めくくった。