資金に余裕ができたおかげで、支払いが遅延していたサプライヤーへの買掛金も、支払い期間が2ヵ月と、正常な水準に戻った。また、品質改善の働きかけを双方向で継続的に続けていったことにより、サプライヤーとの関係が以前よりもはるかに強化された。それがダイレクトに生産品質の改善にもつながっていった。
小城山上海が小城山製作所の完全子会社になるのを機に、CFOのリー、営業担当のミン、人事部長のホワンなど、一部の経営陣は小城山上海を去った。彼らは地方政府からの強い推薦を受けて入社した者たちだった。スティーブに隠れて中国の株主と通じていたことが明らかになり、それが彼らを居づらくさせたのかもしれない。
1月に販売が開始された新製品のコーダは、顧客からの評判が上々だった。高性能、省電力かつ小型のコーダは、採用する家電メーカーが次々と現れ、順調に売上を伸ばしていった。コーダの収益性は従来品より高いため、主力製品がコーダに切り替わることで、小城山上海の収益性は劇的に改善しつつある。現に、3月の経常利益率は5パーセントを達成し、6月には8パーセントとなる見込みである。健太は引き続きスティーブの右腕として、生産品質の改善、資材コストや経費の削減などに取り組んでいた。
6月中旬、健太が上海に赴任して1年になろうとしていた。上海の気温はすでに少し汗ばむほどの陽気も珍しくなくなっていた。
健太はスティーブが執務しているGM室に呼ばれた。
「健太、今日までよく頑張ってくれた。心から礼を言うよ」
「突然どうしたんですか?」
「今朝、瀬戸顧問から電話があって、君に戻ってきてほしいそうだ。君に本社の人事部から連絡があるまで口外しないように言われたけど、自分のことは真っ先に知るべきだと思ったからね」
「そうですか。来たときの経緯も急でしたが、戻るときも同じですね。まだまだやり残したことがたくさんあるのに、残念です」
「私もだよ。君のサポートがあったからこそ、ここまで小城山上海を建て直すことができた。君自身にとっても貴重な経験と大きな自信になったはずだ。健太は、リーダーとして大きく成長したと思うよ。自分でもそういう自信を持てたのではないかな」
「はい。これまで本社のデスクで頭だけで考えていた事業の再生について、実際の現場を体験できたことは大きな収穫でした。スティーブ、あなたからもずいぶん多くのことを学びました」
「ほぅ、具体的にはどんなことかな?」
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