国内大手メーカーに勤める丸山健太は、あるきっかけで中国製造工場の建て直しを命じられる。企業改革どころかリーダーとしての経験もない健太だが、周囲のサポートを得ながら難局と向き合い、やがて3つのミッションを通して一人前のリーダーへと成長していく――。海外における企業再生や買収・事業統合等の現場をリアルに描いたビジネス小説『プロフェッショナル・リーダー』が発売された。本連載では、同書の「ミッション1」の全文を9回に分けて掲載する(毎週火曜日と金曜日に更新)。

〈前回までのあらすじ〉小城山製作所に勤める丸山健太は、中国地方政府との合弁会社である小城山上海電機への出向を命じられる。業績低迷に喘ぐ同社を建て直すため、健太は顧問の瀬戸と橋谷麻理の協力を得ながら、生産品質の改善、新製品開発の加速、調達コストの削減などの施策を続ける。だが、そこに資金繰りの危機が発生。メインバンクに融資継続を要請するが、あっさり断られる。

様々な改善の兆し

 暦が8月になると、健太は一刻も早く支援を獲得するべく、業績改善の取り組みを加速させ、それを頻繁に東京本社に報告することにした。その際には、KPIなどの客観的な数値で業績改善が順調に進んでいることを示す以外にない。健太たちは現場に頻繁に顔を出して活動に巻きを入れる一方で、目に見える改善効果をつぶさに確認し、それをPLへのインパクトに反映させていった。

 モデルラインの立ち上げから約2ヵ月が経つと、生産品質の改善、コスト削減、新製品開発の加速、の3つの分野で目に見える効果が表れるようになった。

 1つ目の生産品質については、モデルライン導入後の4週間で様々な問題点が特定され、それらが着実に改善されつつあった。ラインリーダーの適切な指導のもと、作業員が品質改善に対して高い意識を持つようになったことが大きい。また、サプライヤーから納入される部品の品質も、確実に改善されている。各サプライヤーに具体的な改善点がインプットされ、サプライヤー側でも品質に対する意識が高まったのである。結果として、モデルラインの最終検査における不良率は当初の3分の1ほど低下している。

 2つ目のコスト削減については、ティアダウンの実施により調達コスト全体が3パーセントほど下がった。これまで競争入札を取り入れてこなかったので、初回の効果が想定よりも大きく出たのだ。また、モーターとシェルは社内製造をやめ、アウトソースを実施した。この効果も大きく、それぞれの調達コストが5~10パーセントほど低下した。さらに、他の部品でもサプライヤーとの粘り強い交渉が功を奏した。各部品のサプライヤー側のコスト構造に関する情報を収集・把握し、それに適正マージンを乗せて価格決定するように交渉したのだ。このような論理的なアプローチは、交渉における多くの場面で有効になる。交渉とは、決して場当たり的に臨むのではなく、できる限り事前に理論武装を行い、相手を理詰めで納得させることが重要だ。今回の交渉でも、この手法でいくつかの部品の調達価格を大幅に引き下げることに成功した。