瀬戸顧問の解説〈リーダーのスキル3〉
強い危機意識を持ち続ける力

業績不振企業が破綻するときは、加速度的に事態が悪化していきます。しかし、社内にいると、悪い状況に目が慣れてしまい、企業の状況を客観的に把握することが難しくなってきます。まさに「茹でガエル現象」が起こってしまうのです。

 そして、そのような企業は業績悪化が進展していく中で、そこから抜け出るために採り得る選択肢がどんどん少なくなってきます。そこに追い打ちをかけるように、外部の状況の悪化が重なり、破綻への道を突き進むことになります。そのような企業は、もはや自らの命運を銀行や株主など、外部の手に委ねざるを得なくなるのです。

 健太が派遣された小城山上海でも、実は破綻の一歩手前まで状況が悪化していました。キャッシュが足りなくなるという現象は、通常の状況では破綻間近です。その前にも赤字状態が続いていましたが、経営陣の危機意識の欠如により、本格的な取り組みが行われてきませんでした。

 通常の企業において、そのような危機意識を実感することは難しいでしょう。なぜなら、それは実際に経験してみないとわからないものだからです。企業が破綻した経験を持つ人はそれほど多くいないはずです。しかし、企業を取り巻く事業環境は、年々変化の幅とスピードが増しています。業績不振が顕著に表れていない企業でも、知らないうちに、危機的状況をもたらす要因が社内に芽生えているかもしれません。リーダーは、そのような環境や企業の状況を客観的に判断し、企業の進むべき道に導いていく必要があります。危機意識とはそのためのアンテナであり、リーダーは常にそのアンテナを高く張り巡らせ、来るべき危機を回避するための対策を事前に打たなくてはなりません。

 今回、健太に上海に来てもらったのは、まさに彼がこの危機意識を強烈に持っていたからです。仕事に慣れてくると、つい毎日を安穏と過ごしがちです。しかし、彼は小城山製作所が変わらないといけない、さらなる効率化を目指さないといけない、という強い危機意識を持って、彼なりの考えをまとめたレポートを書いていた。だからこそ、小城山上海へと舞台を変えても、その危機意識を糧に現場を改革できたのではないかと思います。
そして、これは個人がどういうキャリアを歩むかという問題でも同じことです。いつまでも同じところに留まり、進化を目指さない人材には、突然来る環境変化へ対応する力を蓄えられません。

危機意識を持ち続け、常に自分自身を変革させていける人材だけが、環境変化の激しい今の時代を生き残っていけるのではないでしょうか。

 これからの章でも、健太を多くの困難が待ち受けています。彼がこの章で学んだリーダーとしてのスキルをどのように実際の場で活かして、危機的状況を切り抜けていくか、見守ってください。

(連載了)