国内大手メーカーに勤める丸山健太は、あるきっかけで中国製造工場の建て直しを命じられる。企業改革どころかリーダーとしての経験もない健太だが、周囲のサポートを得ながら難局と向き合い、やがて3つのミッションを通して一人前のリーダーへと成長していく――。海外における企業再生や買収・事業統合等の現場をリアルに描いたビジネス小説『プロフェッショナル・リーダー』が発売された。本連載では、同書の「ミッション1」の全文を9回に分けて掲載する(毎週火曜日と金曜日に更新)。
資金繰りの危機
「私は別の調査があるから、ウェイさんへの説明はチョウさんと健太に任せるわ」
その日の午後、麻理はそう言って、オフィスの反対側に向かって廊下を歩いて行った。
チョウは、「この件は、まず私からウェイさんに話してみるよ。結構刺激的な内容だから、君が行くと火に油を注ぎかねない」と健太に言って、1人でウェイとの打ち合わせに向かった。
1人残された健太は、書きかけの報告書をまとめるために、オフィス代わりに使っている会議室で作業を続けることにした。
報告内容が変更されたこともあって、健太が報告書を書き上げたのは夜8時過ぎだった。帰り支度を済ませて会議室を出た健太は、麻理の所在が気になって探してみた。するとコントローラー(CFOを補佐する経理責任者)の鈴木のオフィスで、鈴木と麻理が何やら神妙な顔をしてPC画面を覗き込んでいた。健太はドアの隙間から声をかけようとしたが、2人のあまりに真剣な表情に気後れし、黙ってその場を後にした。
2日後の金曜日──。朝7時に健太が出社すると、すでに麻理が出社しており、誰かと電話で話し込んでいた。昨晩にも増して険しい表情で、声のトーンも低い。
「……はい。やはり仰る通りでした。想定以上に緊急性が高そうです。……はい。まだ誰ともシェアしていません。健太さんには伝えてもよいでしょうか。……わかりました」
麻理が電話を終えるのを待って、健太は話しかけた。
「……おはよう。何やら深刻そうだね」