翌朝、瀬戸は早くも帰途につくため、上海浦東国際空港に向かい、健太も見送りに行った。

「それでは、丸山君。あとはよろしく頼むよ。いろいろありがとう。おかげで大変スムーズに事が運んだよ」

「こちらこそありがとうございました。ご帰国、お気をつけて」

「そう言えば、姪の麻理がよろしく伝えてほしいと言っていたよ」

「えっ、麻理さんが!?嬉しいなあ。麻理さん、お元気ですか?」

「スタンフォードのMBAプログラムが始まって忙しそうにしているが、元気だよ。西海岸の食事はうまいと言って、少しふっくらしていたな。上海での2ヵ月間は大変勉強になったと言っていたよ」

「それでは、瀬戸顧問も西海岸にいらっしゃったのですか」

「ちょっと用事があってね。あそこは1年中良い気候だから、体も楽だよ」

「もし麻理さんとお話しされる機会があれば、私からもよろしくお伝え頂けますか。私のほうこそ、麻理さんに大変お世話になりました」

「君から直接連絡すればいいじゃないか。本人も喜ぶと思うけどなあ」と瀬戸は含み笑いをしながら、それじゃあ、と手を振ってセキュリティーゲートに向かった。

黒字化の定着

 初夏に差し掛かった頃、小城山製作所は地方政府から小城山上海電機の株式25パーセントを取得し、完全子会社化した。資金調達については、本社の財務経由で日本のメガバンク3行の上海支店に声掛けし、いずれも前向きな回答をもらうことができた。

 すると、それを聞きつけた上海地方銀行の支店長がスティーブのもとに駆けつけ、既存の借入枠をぜひ延長させてほしいと申し込んできた。投資会社が小城山上海の黒字化を成功させてエグジットしたという噂が広まっており、その状況でメインバンクが支援を縮小するのはいかにも不自然というわけだ。

 スティーブは、銀行からの提案をありがたく受け止め、他行とも比較して検討すると伝えた。支店長は以前の居丈高の態度がコロッと変わり、一貫して低姿勢だった。後で、その様子を健太に話すスティーブは、本当に嬉しそうだった。