パナソニックが三洋電機を買収する方向で調整に入った。パナソニックの創業者・松下幸之助氏の妻が、三洋電機の創業者・井植歳男氏の姉で、浅からぬ因縁がある。本社所在地は門真市と守口市で地理的にも近い。だが、これまでビジネス上の付き合いはほとんどなかった。急速に両社が接近した背景には何があったのか。

 3連休の谷間の10月12日、静岡県にある富士スピードウェイで、自動車レースの最高峰・F1世界選手権の第16戦日本グランプリ決勝が開催された。

 華やかなレースが繰り広げられた舞台の袖で、大坪文雄・パナソニック社長と渡辺捷昭・トヨタ自動車社長の両トップが、顔を突き合わせる姿があった。

 パナソニックは、F1に参戦しているトヨタのチームスポンサーであり、両社は株式を持ち合うほどの親しい仲にある。そうした意味においては、両トップの会談などとりたてて珍しい光景ではないし、そこで、どんな会話が交わされたのかも定かではない。

 だが、「ちょうどその頃、トヨタとパナソニックとのあいだで、三洋電機の電池事業に関する“相談事”が持ち上がっていた」(トヨタ関係者)という。

 両社は、業界に先駆けて1996年から、ハイブリッド車(従来のガソリンエンジンと電気モーターを組み合わせたクルマ)や電気自動車といった環境対応車向けの次世代電池の開発に着手してきた。代表的な次世代電池と目されるのは、ニッケル水素電池とリチウムイオン電池で、後者のほうがより大容量の蓄電ができるが安全性の確保が難しい。

 両社は共同出資会社パナソニックEVエナジー(PEVE)を設立し、宮城県での新工場建設を決めるなど、ニッケル水素電池の量産化計画は順調に進捗している。だが、その一方で、トヨタの環境対応車の代名詞である「プリウス」へのリチウムイオン電池搭載がいまだかなわず、後れを取っている。

 そんな矢先、この5月に、リチウムイオン電池市場で世界首位の三洋が、2010年にも独フォルクスワーゲン(VW)にリチウムイオン電池を供給・販売することを決めた。

 関係者によれば、「トヨタ社内では1年ほど前から三洋へのアプローチについて検討し、経営陣のあいだで意見が割れていた。これで、ライバル陣営に先を越されたことが決定的となり、トヨタ技術者はパナソニックとの連携だけでは不十分という結論を導いた」という。

 そして、トヨタはパナソニックに、共同で三洋の電池事業を取得できないかと打診した――これが、“相談事”の内容と見られている。