日本の年末商戦に向けて、ソニーが“稼ぎ頭”の新商品を投入する。

 11月11日に発売されたプレイステーション3(PS3)の廉価版(3万9980円)のことではない。ゲーム機としては1世代前であるプレイステーション2(PS2)を、軽量化した新しいデザインで発売するのである。

 次世代機と旧世代機を併売するのは、特段珍しいことではない。

 ソニーもかつて、PS2発売後もPS初代機の販売を続けた。もっとも、その際は、PS2の販売台数が初代機を大きく上回っており、明らかに“主役”はPS2だった。

 ところが、今回は事情が違う。PS3は価格の高さやタイトルの少なさから販売台数が想定を下回り、発売後1年が経過しても、四半期ごとの販売台数でPS2を上回ったことは1度もない。さらに、2007年通期の販売見通しでは、PS2が200万台上方修正される一方、PS3は据え置かれたため、両者の当初販売見通しとは逆転する。台数ベースでは依然としてPS2が“主役”であることを、ソニーが認めたことになる。

 もっとも、ソニーにとっては、短期的にはPS2が主役のままのほうが好都合だ。PS3は販売価格が生産コストを下回る“逆ザヤ”の状態で、現時点では売るだけ損が出る。対して、全世界で1億2000万台以上売れたPS2は、開発投資の回収も終わり、売れば売るほど黒字が増える。ソニーは否定するが、PS2の拡販は、「ゲーム事業の赤字幅を少しでも縮小させるため」(業界関係者)という見方もある。

 だが、中期的には不安要素のほうが大きい。海外のソフトメーカーは、1つのタイトルを複数のゲーム機に展開するマルチプラットフォーム戦略を採っている。それゆえ、PS2とPS3の併存が長期化すれば、当然、両者に同じタイトルを供給することとなり、「PS2保有者がPS3の購入を躊躇する可能性がある」(森田正司・岡三証券情報通信グループ長)。

 新型PS2の投入が吉と出るか凶と出るかは、今後PS3が、次世代機として独自の魅力を訴求できるかにかかっている。さもなければ、任天堂の背中は遠ざかるばかりだろう。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 前田 剛)