経理や営業、広報、IR担当
などの突然の辞任に要注意!
山本 実は僕って、フェイスブックやツィッターでは投資に関する話を一切しないように心掛けているんですよ。
藤野 それはどうして?
山本 日頃から僕は、「この銘柄はおかしい?」と思ったところを定点観測しているのですが、うっかりSNSに出してしまうと逃げられかねないからです。そういった怪しい企業では、長く勤めた幹部や創業来の取締役がいなくなってたり、社員が大量に辞めていたり、その逆で大量採用があったり、あるいは事業部は突如として閉鎖になっていたりといった兆候がうかがえるんです。
藤野 大量に解雇したというケースだけではなく、自発的に大挙して退職しているケースも危ないですよね。
山本 決算書って、その企業の物語ですよね。すべての事業に関して、それらを立ち上げてからの歩みがつぶさに記されていますから。だから、変だと思った企業の決算書は細かくチェックしてみるのですが、ある事業が忽然とIR情報から消えてしまうケースがあるんです。おそらく、そのタイミングでその企業にとって都合の悪い何らかが発生しているわけですよ。だから、そこを起点に掘り下げていくようにしていますね。
藤野 突然、IR担当者が退職した場合は「売り」というのが我々運用の人間の間で鉄則です。95%程度の確率で、その企業の内部で悪いことが起きているはずだから。それも、ベリーバッド級のよくないことである可能性が高い。
山本 経理や営業、広報、IRなどは社外に対してもウソを突き通さなければならず、良心の呵責に耐えられなくなるわけですね。組織ぐるみでウソをつき続けることにまったく抵抗がない企業も一部には存在していますけど(笑)。普通の感覚の人間なら、ウソを塗り重ねるうちに次第に摩耗していって、何かのタイミングで弾けてしまうものです。
先日も、僕がおかしいと思って調べていた某社にあれこれ問い合わせている中で「経理の担当者は?」という質問を投げかけたら、「辞めました」という返事が戻ってきました。こりゃ、完全にリーチってことですよ(笑)。
藤野 IR担当者の突然の退職は「売り」だと言ったけど、僕らが買う企業は、かなり入れ込んでその株を買っていたことも事実。だから、とりあえず売ったうえで、ちゃんと退職の理由を調査していますよ。95%はダメな理由であっても、残る5%は、たとえばお父さんが急逝して家業を継ぐことになったとかいったケースの可能性もありますから。
山本 確かに、そのようなやむをえない事情であったら、「売り」ではないでしょうけどね。
某社の女性IR担当者から
デートに誘われたと思ったら…
藤野 とはいえ、たいていはダメですね。もう20年近く昔の話なんですが、某社のIR担当者から電話がかかってきて、「会社を辞めることになったので、そのご挨拶を兼ねて食事でもいかがですか?」と誘われたことがあったんです。それで、担当が若い女性だったから、「ひょっとしたら僕に気があるのかな?」なんて淡い期待を抱きながら会ってみたわけです。僕も若かったし。(笑)
山本 あはは。
藤野 もちろん、そんな理由ではぜんぜんなくて、彼女は非常に悩んでいたんです。実際に会ったとき、急に辞めるに至った理由について聞いたところ、「会社もいろいろとありますから……」と彼女は言葉を濁した。それが精一杯のシグナルだったんだと思います。
今なら、「これは会社自体が何らかの問題を抱えていて、そのことに不満を募らせているのかも?」と思って、保有していたその企業の株を即座に売るとか対応できたと思うんですが、そのときは、若くて経験も浅かったのでそういう判断は働きませんでした。
そして、彼女が辞めて少し経ってからその企業の不祥事が発覚し、株価が急落してしまったんですよ。あれはショックでしたね。