【津田】日本でかつて最も優れた「考える」教育がなされていたのは、じつは旧制高校だったんじゃないかと僕は思っています。
灘は数学の時間でも、徹底的に「証明」をやりますよね。証明ができるかできないかというのは、まさに論理的思考力の有無に直結しますから。
いまでも覚えていますが、いきなり定理の証明をやるのではなく、ユークリッドの『原論』みたいに、公理から見ていくんですよ。「1つの直線とその直線上にない1点が与えられたとき、その点を通りかつその直線と平行な直線は1つ存在する」というようなところからやりましたから。
【鈴木】期末試験も定理の証明問題がメインで出題されていましたね。そうやって「考える」土台をつくる教育が構築されていたと思います。
定理に当てはめるより、
定理をつくり出す人が勝者になる
【津田】僕はふだん企業研修なんかをやっているんですが、ビジネスの世界というのは数学とは違って「定理」みたいなものがないですよね。数学みたいに普遍性がある理論はまず存在しない。
【鈴木】なるほど。
【津田】ですから、実務においては自分なりの定理とかフレームワークをつくれないといけないんです。でも、なかなかできる人がいなくて、他人がつくった理論とかフレームワークを鵜呑みにしている。だからケーススタディをやらせても、そういう枠組みに当てはめて、何かを考えた「気分」になって終わってしまっている人がほとんどです。
【鈴木】まったくそのとおりですね。それは霞が関のエリート官僚たちを見ていても感じるところです。
他人のフレームを使うにしても、結局のところ、その根本にある原理原則・基礎基本が「なぜそうなっているのか」がわかっていないと、いざというときにプロダクトイノベーションができないんです。
今は「先行者利益」の時代ですから、後追いでは勝てない。工業化社会のときには、すでにある製品の生産性を上げるとか、不良品率を下げるとかいったプロセスイノベーションでもよかったんですが、今は違います。新しいプロダクトをいち早く生み出した人間が総取りする、“winner-takes-all”の時代なんですよね。
【津田】おっしゃるとおりです。プロセスイノベーションって、言ってみれば改善ですから、本来のイノベーションとは呼べないと思います。
【鈴木】日本のイノベーションのほとんどはプロセスイノベーション、つまり改善で終わっているから、なかなか競争力が保てなくなってきていますよね。