6刷まで版を重ね、電子版も合わせ3.4万部の売れ行きを見せている『あの人はなぜ、東大卒に勝てるのか ― 論理思考のシンプルな本質』。
今回はダイヤモンド・オンラインの好評連載「混沌社会を生き抜くためのインテリジェンス」でもおなじみの「スズカン」こと鈴木寛・文部科学大臣補佐官との対談をお送りする。
教育改革のプロフェッショナル・鈴木寛氏と、ビジネス教育のスペシャリスト・津田久資氏による「灘・東大」トークは、どんな広がりを見せるのか?(第1回/全3回)
(構成 高関進/写真 宇佐見利明/聞き手 藤田悠)
なぜ灘では「幾何」に1年かけるのか?
――本日はよろしくお願いいたします! お2人は「灘中→灘高→東大法学部」という典型的なエリートコースを歩んでこられた先輩・後輩とのこと。
文部科学大臣補佐官である鈴木さんは「制度面」から、企業研修講師としてもご活躍の津田さんは「ビジネス面」からという違いはありますが、まずは「教育」に対する問題意識をお聞かせください。
1964年生まれ。灘中→灘高→東京大学法学部卒業後、86年通産省入省。2001年参議院議員初当選(東京都)。民主党政権では文部科学副大臣を2期務めるなど、教育、医療、スポーツ・文化を中心に活動。党憲法調査会事務局長、参議院憲法審査会幹事などを歴任。13年7月の参院選で落選。同年11月、民主党離党。14年から国立・私立大の正規教員を兼任するクロス・アポイントメント第1号として東京大学、慶応義塾大学の教授に就任。同年、日本サッカー協会理事。15年2月から現職。
著書に『熟議のススメ』(講談社)などがある。
【津田久資(以下、津田)】鈴木さんとは灘中・灘高の先輩・後輩関係なのですが、こうしてじっくりお話しさせていただくのは今日が初めてなんですよね。本日はよろしくお願いします。
【鈴木寛(以下、鈴木)】はい、よろしくお願いします!
【津田】せっかくなのでまずは「灘高」の話から。今回書いた『あの人はなぜ、東大卒に勝てるのか』という本を、灘時代の同級生に送ったんですが、そのときに「僕らが灘で受けた教育というのは、大学入試という視点だけから見ると、おそらくかなりオーバースペックだったんじゃないか」というメッセージを添えたんですよ。
【鈴木】ええ、オーバースペック。それはそのとおりだと思いますね。
【津田】その友人というのも、鈴木さんと同じくいま大学教授をやっていて、普段はいわゆるビジネス書をほとんど読まないんですが、彼も「その通り。灘の教育はオーバースペックだった!」と言っていました。
本書では、「考える能力が欠けていて、学ぶ能力だけに偏っている人材」を「東大卒」とシンボリックに表現したわけですが、これはもちろん東京大学という特定の大学だけを批判する意図はありません。
博報堂、ボストン コンサルティング グループなどで一貫して新商品開発、ブランディングを含むマーケティング戦略の立案・実行にあたる。
現在、AUGUST-A株式会社代表として、各社のコンサルティング業務に従事。また、アカデミーヒルズや大手企業内の研修において、論理思考・戦略思考の講座を多数担当。表層的なツール解説に終始することなく、ごくシンプルな言葉で思考の本質に迫る研修スタイルに定評があり、のべ1万人以上の指導実績を持つ。
著書に『あの人はなぜ、東大卒に勝てるのか』『世界一わかりやすいロジカルシンキングの授業』などがある。
一方で、変な言い方ですが「灘高型エリート」というものがあるとすれば、それは「東大卒」的なイメージからはかなりかけ離れていると思いませんか?
【鈴木】おっしゃるとおりですね。灘のロールモデルというのは、津田さんの言葉を借りれば、まさに「思考する野蛮人」ですよ。もちろん、「大学入試なんて戦略的にやれば簡単だ」とか「数学は暗記だ」と主張している灘の出身者もいますが、実際に行われている教育はまさにオーバースペックで、「受験に最適化されている」とはおよそ言い難いですよね。
たとえば私が灘にいたころ、中2の数学では「幾何」しか習いませんでした。1年かけてずーっとひたすら幾何を学ぶんです。幾何なんて大して入試に出ないんですが、あれがよかったと思いますね。灘高生の「思考力」を鍛え上げているのは、あの幾何を重視する伝統だと思います。
【津田】僕が受けた授業もまったく同じでした。しかも当時使われていた幾何の教科書って、えらく古めかしいガリ版刷りじゃなかったですか? 市販の教科書ではなかったと記憶しています。
【鈴木】そうそう、きっと旧制高校時代の教科書をそのまま使っていたんじゃないですかね。私のころにはまだ東京高等師範学校(現在の筑波大学の前身)とか帝国大学(現在の東京大学の前身)を卒業された先生方がかなりいました。彼らがやっていたのは、まさに旧制高校時代の教育なんだと思いますね。